2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年10月22日

 米ブルッキングス研究所上席研究員のジェフリー・ベイダー、同ケネス・リバソール、および、米CNA Corporation上席研究員のマイケル・マクデヴィットが、8月7日にブルッキングス研究所が発表したレポートで、南シナ海の領有権問題をめぐって、米国は中国を刺激して緊張を高めるべきではない、と述べています。

 すなわち、南シナ海をめぐる意見の相違から来る米中両国の不信感の増大は、米中二国間関係全般に悪影響を与える恐れがある。海洋航行や上空通過の自由は、米国にとって死活的利益を含むが、南シナ海沿岸国の領有権の主張はそうではない。米国は、本件を大局的にとらえ、紛争への滑落の危険を最小化するような戦略を構築する必要がある。

 ヒラリー・クリントン国務長官は、2010年7月のハノイでのASEAN地域フォーラム(ARF)において、南シナ海での米国政府の政策の基礎となる原則を示した。(1)海洋航行の自由、(2)上空通過の自由、(3)通商への障害回避、(4)紛争の平和的解決及び強圧的行為の回避、(5)領有権主張の国連海洋法条約への適合、(6)領有権問題を解決するための協調的外交プロセス、(7)「南シナ海行動規範」の交渉、である。

 このうち、「紛争の平和的解決及び強圧的行為の回避」こそが、米国にとって南シナ海での死活的に重要な目的であり、また、領有権主張国に強圧的行為を回避させるための、「領有権問題を解決するための協調的外交プロセス」に米国の国益がかかっている。「上空通過の自由」については、中国は、南シナ海にも防空識別圏を設定するかもしれないが、東シナ海同様、航空機の飛行を妨げるような形で運用されることはないであろう。「通商への障害回避」については、中国が通商に障害を与えることは考えにくい。

 それゆえ、米国は、次のように、競合する国益の間で、バランスをとらなければならない。(1)米中間及び領有権主張国間の緊張を高めないようにすること、(2)南シナ海問題での米国の国益を保護すること、(3)米国の安全保障上のプレゼンスは恒久的なものであることを地域諸国に確信させること、(4)米国が軍事的に行動しそうもない事態において米国が行動すると誤信させないこと。そして、米国がコントロールできない事項にとらわれて、中国との関係における、より広範な国益を損なうべきではない。

 領有権を主張する幾つかの国は、中国への対抗と自国の主張の立場を強化するために、米国を深く引き込もうとしている。米国は、このことを認識し、米中関係を不当に悪化させることのないよう注意しなければならない。

 クリントン国務長官、ケリー国務長官によって明らかにされた原則は正しいが、中国にだけではなく、全ての国に呼びかけるものでなければならない。また、米政府関係者は、中国を一方的に「挑発的」、「攻撃的」と呼ぶような声明を控え、公的発言のトーンを下げるべきである。


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