2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年10月22日

 米国は、外交戦略の中心に、国連海洋法の遵守、「南シナ海行動規範」の交渉への支持という2つの根本的目的を置き、国際社会がこれらを容認するよう説得すべきである。米国は、南シナ海での問題を、中国との冷戦開始、あるいは、米中関係の中心的な戦略的事項であるとみなすべきでない、と述べています。

 (出典“Keeping the South China Sea in Perspective”;Jeffrey Bader, Kenneth Lieberthal& Michael McDevitt,;Brookings Institute;August 7, 2014)
http://www.brookings.edu/research/papers/2014/08/south-china-sea-perspective-bader-lieberthal-mcdevitt

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 上記は、極めて問題の多い政策提言です。まず、海洋航行や上空通過の自由は米国の死活的利益であると冒頭で述べつつも、2010年に米国政府が明らかにした原則を独自に解釈して、中国との緊張緩和と摩擦回避を国益の最上位に持ってきています。そして、米国政府は、南シナ海で生じている事態を誇張してはならず、中国を一方的に「挑発的」、「攻撃的」といった表現で非難すべきでない、と主張しています。しかし、南シナ海で海空軍の急激な軍拡を続け、自国に有利なパワー・バランスを追求しているのは中国であり、このような国に対し緊張緩和と摩擦回避を最優先とした政策をとれば、南シナ海における中国の圧倒的優位を許すことになりかねません。

 また、情勢認識もバランスを欠いています。上記レポートでは、中国以外の領有権主張国が軽率な行動をとって、米国が中国との望まない紛争に巻き込まれる可能性を懸念する記述が頻繁に出てきます(原文で数えてみると、約10ページのレポート中に10カ所出てきます)。しかし、実際には、中国の力による現状変更がほとんどです。上記レポートは、アジアの米国の同盟国や友好国は、信頼のおけない潜在的トラブル・メーカーで、中国こそ信頼できるパートナーと言わんばかりですが、事実は逆です。東シナ海で一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定したり、南シナ海の係争地域で掘削作業を行なったり、また、戦闘機への急接近を試みたり、問題は中国側から起こしています。

 ヒラリー・クリントンがハノイのARFで米国の原則を明らかにした2010年7月、ジェフリー・ベイダーは、米NSCアジア上級部長を務めていました。そういうオバマ大統領に近い人物が、上記のような提言を行なうことには、十分注意して行かなければならないでしょう。

  
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