ロシアを取り巻く情勢を変えうる一大事
横転し真っ黒焦げになった「ファルコン50」の残骸は、翌朝、使用が再開された滑走路脇に晒された。ロシアの要人がどんなにドマルジェリ氏の死を悼んでも、事故原因はロシアが改善しようにもなかなか撲滅できない欠陥だけに、むなしく響く。
ここ数年だけでも重大な航空機事故は何件も起きている。しかもそれは、ヒューマンエラーが要因なのである。ブヌコボ空港はモスクワ中心地に最も近い空港であり、ロシアを訪れる外国の首脳が利用するところでもある。その空港で2012年に、滑走路をオーバーランした旅客機が道路脇の盛り土に激突、乗員5人が死亡した。
10年にはポーランドのレフ・カチンスキ大統領を乗せた政府専用機がロシア西部スモレンスクの飛行場で、着陸態勢に入った際に墜落、乗員乗客96人全員が死亡した。当時も滑走路には霧が立ちこめており、ポーランド側は空港の管制官のミスが悲劇を導いたと主張している。
そして、アルコール禍。インタファクス通信によると、除雪車の運転手は仕事前に「リキュール入りのコーヒー」を飲んだことを認めた。さらに簡易検査により、血中に低濃度のアルコール分も検出された。捜査員に対し、「位置を見失い、滑走路に出たことに気付かなかった」と告白した。
ロシアの捜査当局はその後、「航空の安全を著しく怠った」として同空港の管制体制の責任者ら4人を逮捕し、空港の運営会社幹部が責任をとって相次いで辞任を表明する事態に発展している。今後、多大な補償費用をロシア側が支払わなければならないのは必至の情勢だ。
ロシアはいま、ウクライナ情勢をめぐる欧米との対立で経済的な危機に直面している。欧米の制裁は資源分野にまで及び、高性能の掘削用設備が手に入らないため、新規油田開発がストップしている。そうした情勢に加え、世界的な景気低迷で原油価格が落ち込み、通貨ルーブルが下落。物価高を呼び込み、国民の生活を直撃している。
ロシアに立ちこめる暗雲はしばらく消え失せそうにもない。後世の歴史家は、2014年はプーチン政権が転換期を迎え、崩壊するきっかけになった年と解説するかもしれない。
クリミア併合やマレーシア機撃墜事件のように、トタル社長の悲劇は歴史教科書に載るような事案ではないが、ロシアを取り巻く情勢を変えうる一大事と言えるだろう。
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