中小企業連合で打ち上げた人工衛星「まいど1号」などモノ作りの町として知られる東大阪。この町で唯一原形を止めている雑木屋敷林の中に江戸時代に建てられた茅葺の建物がある。ここを起点にして、偉人・中甚兵衛を掘り起こすことで、これまでにない町おこしが始まった。
東大阪は中小の町工場や住宅、マンション、商店などが混在する雑然とした町である。そこを阪神高速東大阪線や国道308号線、近鉄けいはんな線が束になって東西に貫通している。そんなせわしない大動脈の吉田という駅から、ほんの数分歩いて北に路地を入ったところに、こんもりとした小さな森がある。
川中邸屋敷林。東大阪で唯一原形を止めている雑木屋敷林で、江戸時代に建てられた茅葺の建物は国の登録有形文化財に指定されている。
そんな建物の一室で、何度も繰り返されてきた会議の成果が、2014年夏に遂に形になった。『中甚兵衛(なかじんべえ)物語=大和川の流れをかえた男』。A5版で約90ページの漫画冊子だ。
「中甚平衛物語=大和川の流れをかえた男」
中甚兵衛は江戸時代に実在した人物。当時、河内(かわち)平野を幾筋にも分かれて流れていた大和川を、現在の柏原市から堺の大阪湾へと付け替えた立役者だ。川の付け替えによって洪水に苦しんでいた村の人々を救い、田畑を大きく増やすことに成功。後には河内木綿の生産などで、商都大阪の発展に結び付くことになった大事業である。
「忘れ去られていた郷土の偉人を掘り起こすことで、町おこしをしようと考えたんです」と、このプロジェクトを立ち上げた幸田栄長さんは言う。