地元水産業の衰退を目の当たりにして、「象牙の塔」を飛び出した長崎大学水産学部。生物学、経済学、環境などを融合させた「海洋サイバネティクス」という学問的アプローチと、現場のアイデアによって「儲かる漁業」への転換を図る。
長崎県南島原。江戸初期に起きた島原の乱で、一揆軍が最後に籠城した原城址のすぐ足元に広がる小さな漁港は、ここがかつて激戦の地だったことなどすっかり忘れたかのように、のんびりと穏やかだった。
「大学なんて敷居が高かって思っとりましたから、何時間もかけて先生たちがここまで気軽に来てくれるとは、正直、驚きでした」
係留した小船の上で、村田国博さんは日焼けした顔をくしゃくしゃにして笑った。
師弟関係にあった長崎大学・橘勝康教授(左)と、島原半島南部漁業協同組合代表理事組合長・村田国博さん(右)
高校を卒業して漁業の道に進んだ村田さんが無縁だと思っていた大学と出会ったのは2010年夏のこと。長崎大学水産学部が2007年度から始めた水産業活性化のための人材育成プログラム「海洋サイバネティクスと長崎県の水産再生」という講座を知ったのがきっかけだった。
研究発表会には学生も参加し、熱心に耳を傾けていた
漁業者や水産加工業者、自治体職員などを対象に長崎大が募集。長崎大と現場で行われる集中講義や実習に参加するのが条件だが、受講料は無料だった。