ちょっとしたヒット商品になったのが「ひょっつる」。養殖した「原城わかめ」をゼリー状に溶かして、細い麺状に加工した「わかめ麺」だ。島原名物のそうめんと同様に、麺つゆで食べたり、酢の物やサラダに合う。海藻なので煮崩れないため、鍋物にも合う。カルシウムやミネラル分が豊富なうえ、100グラムあたり6キロカロリーしかないため、ダイエット食としても注目された。今では養殖わかめに匹敵する売り上げを稼ぐ南有馬の特産品に育った。
他にも加工品が作れないか。立て続けに水産食品コースに進んだのはこのためだ。
「村田さんはアイデアマンなので、私たちが教えるというより、一緒にいろいろ考えたり試したりしてきたんです」
この2年間、村田さんの担当主査を務めてきた橘勝康教授は語る。橘教授は2010年4月から今年3月まで水産学部長を務め、「海洋サイバネ」を推進してきた中心人物のひとりだ。
大学の存在意義が問われる
水産王国の長崎県も漁獲高は年々減少が続いており、このままではジリ貧だ。日本には国立大学の水産学部は4つしかない。そのひとつがある長崎の水産が衰退すれば、学部だけでなく大学の沽券にかかわる。水産学部を中心に経済学部の教授なども加わり、大学を挙げて「海洋サイバネ」に取り組む背景には、存在意義を問われかねない大学としての危機感があるのだ。
海洋サイバネの事務局を務める菅向志郎准教授は「学者がどんどん現場に出ていき、事業者と一緒になって問題を解決していく社会的意義は大きい」と語る。「象牙の塔」を飛び出し、教員自らが地域に足を運んで「産学連携」を試みているわけだ。教授らが現場に出向く際には、水産学部の学生も連れていくケースが増えている。机上の論理だけを学ぶのではなく、実際の現場を見ることができるのは学生にとっても大きなプラスになるからだ。