エコノミスト誌9月27日‐10月3日号は、中国の水不足について、現在実施中の世界最大の水移転プロジェクトによっても問題は解決しないだろう、と指摘しています。
(“A canal too far”
http://www.economist.com/news/china/21620226-worlds-biggest-water-diversion-project-will-do-little-alleviate-water-scarcity-canal-too )
すなわち、中国北部には中国全土の5分の1の淡水しかないのに、耕地の3分の2が集中している。さらに、ここ数十年、急激な都市化と河川の汚染が進んだ結果、同地域は、慢性的な水不足に悩まされている。
2002年に中国南部から北部に水を移す世界最大の用水プロジェクトが始動し、昨年、その第一段階が完了した。これは1400年前に造られた「大運河」を拡張・掘削し、揚子江流域から天津まで水を運ぶものである。この10月には、第二段階として、はるかに野心的でコストも要する、湖北省と北京を結ぶ新運河が開設される。
しかし、新運河の建設によっても、中国の水不足は解消されない。それは、人口増加、都市の拡大、工業化等で、水の需要が供給以上に拡大しているからである。
最大の問題点は、中国政府が、水の供給量を増やすばかりで、問題の根源である水の需要問題に向き合おうとしないことである。2009年の世銀報告書によれば、中国は単位当たり工業生産に、先進国平均の10倍の水を使っている。これは、水が非常に安価なためである。2014年5月に政府は水道料金を多少引き上げたが、市場レベルには程遠い。
水の価格を引き上げれば、需要は抑えられ、効率的な消費が促されるが、役人はこうした解決策を嫌う。彼らは、水の価格を引き上げて工業が逃げ出すようなことはしたくない。住民の抗議にも直面したくない。そこで、パイプや運河によって水をやりくりしようとする。水移転プロジェクトは「政治権力の物理的証し」である。
このままでは、いつか、チベット高原を横断して揚子江源流と黄河上流とをつなぐ大工事も始まるかもしれない。そうした巨大プロジェクトによって、問題は先送りされ、解決に至ることはないのであろう、とエコノミスト誌は述べています。
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中国の水不足は深刻であり、ことによると、大気汚染問題より深刻であると言ってよいかもしれません。論説は、1400年前の隋の煬帝の大運河について言及していますが、中国の水問題は、まさに歴史的な問題です。そして、今日とられている対策も、1400年前の煬帝と同じ発想に基づく、水の大規模移転に頼ろうとしています。