2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年12月2日

 米国は、豚肉と米台二国間投資協定をリンクさせることを止め、直ちに交渉を開始すべきである。米国は、成功する見込みのない狭い利益を追求し、より広い利益をリスクに晒している。こうしたやり方は、台湾をさらに中国の抑圧的な体制の中に追いやり、台湾海峡の緊張を高めるリスクを増大させることは確実である、と述べています。

出典:Rupert Hammond-Chambers, ‘Pork Politics Threaten the Taiwan Strait’(Wall Street Journal, October 22, 2014)
http://online.wsj.com/articles/hammond-chambers-pork-politics-threaten-the-taiwan-strait-1413997589

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 米国は、米台間の貿易自由化交渉については、これが経済的にも戦略的にも重要であることを認めています。一方、台湾の保護主義や特異な規制に関しては、それを改めるよう強く求める意見が根強くあります。米国産豚肉の禁輸問題は、米国側から、特に厳しい批判を受けています。

 それに対し、この論説は、米国と台湾の関係を考える時、豚肉のような一分野の貿易問題によって、安全保障を含む関係全般が停滞している、として米国側の戦略的行動を促しています。米国側にも台湾側にも農産物、食肉等をめぐる保護主義は存在しますが、大局的見地から、米国側がより多く譲歩すべきであるという主張です。これは、米台商業協会会長として米台間の経済関係を知悉している論者が、中国の対台湾政策への危機感に対する的確な認識を背景にした、見識のある意見であり、論者の地位を考えれば、重みを持つものと思います。

 米国にとっても、日本にとっても必要とされるのは、台湾を早期にTPPに加盟させることによって、台湾の対中経済依存度(現在、台湾の総輸出の43%が中国向け)を低下させ、台湾を、価値観を同じくする米国、日本、ASEAN、豪州等に、より接近させることです。

 馬英九政権はTPPに参加したいとの明確な意思表示をしています。しかし、具体的にそのような動きが出てきたときに、中国がこれを黙認するか、あるいは牽制したり反対したりしないかという点については、今の段階では判然としません。

 香港の民主化活動への馬英九総統の支持表明に対して、中国の人民日報系の『環球時報』は、強い不快感を示し、「一地方の頭目は発言を自重して、台湾世論を間違った方向に誘導するな。馬英九に対しては中国には何らの借りもない」との異例の脅迫めいた警告をしています。こうしたことを考えると、台湾のTPP参加に対して、中国が妨害をする可能性は低いとは言えないでしょう。それに対して、ハモンド=チャンバースは、中国の考え方とは無関係に、台湾のTPP参加を推進することを含め、米台間の通商関係を強化すべきである、と言っているわけです。

  
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