いずれにせよ、どのようにGDPを算出しても、中国がいつ米国の経済力に追いつくか、または追いつくことがあるのか、を判断するには不十分である、と述べています。
出典:Joseph S. Nye‘China’s Questionable Economic Power’(Project Syndicate, November 6, 2014)
URL:
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-questionable-economic-power-by-joseph-s--nye-2014-11
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上記論説で、ナイ教授は、中国の経済はGDPでは米国に追いつき、追い越すかもしれませんが、経済の質の面では、まだはるかに米国に及ばない、と言っています。その通りでしょう。
ナイの指摘を待つまでもなく、中国経済の未熟な面、そして問題点が多々あることは周知の事実です。中国がこれらの問題にうまく対処できるかどうかも疑問視されています。
しかし、国力の端的指標であるGDPを過小評価すべきではありません。
GDPが大きければ、予算も大きく、軍事予算も大きくなります。もちろん配分の問題はありますが、中国の軍事大国化を可能にしたのは経済の発展です。また、中国は増大した国力を背景に、戦後米国が指導したブレトン・ウッズ体制に対する挑戦を始めています。ナイの言うように経済の高度化の面では、中国は未だはるかに米国に劣りますが、国力の指標であるGDPも重要であることは忘れてはなりません。
ナイはこの論説でどういうメッセージを伝えたかったのでしょうか。
ナイは1990年に“Bound to Lead: the Changing Nature of American Power”(邦訳名『不滅の大国アメリカ』)という書を出版しました。当時1980年代後半は、日本の産業、技術が米国に挑戦し、米世論調査で、「ソ連の軍事的脅威より、日本の経済的脅威の方が大きい」という結果が出たほど米国の危機感が強かった時代です。それを見たナイは、日本の挑戦はあるが、米国は経済を含み底力を持っていて、米国の強さを再評価すべきである、と論じたのです。
当時の日本の挑戦と今の中国の挑戦は同じではありませんが、似た点もあります。ナイは、中国の経済的台頭はあっても、米国の経済の底力をみれば、心配するに及ばないと言っているようです。
ただしそれは、中国の経済的台頭を恐れるに足らずというのとは異なります。
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