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2015年2月3日

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小川たまか (おがわ・たまか)

フリーライター

1980年東京生まれ。教育、働き方、性暴力などを取材。『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(2018年/タバブックス)。Yahoo!個人「小川たまかのたまたま生きてる」(https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/)などで執筆。Twitter:@ogawatam

複数の資格保有者が証言する
「まばたきでモールス信号は困難」

 一方で、この情報に疑問を投げかけている人もネット上には多い。動画で検証しているサイトを含め、はっきりと「デマ」と断言しているサイトもある。

 この件で、モールス通信の資格を持つ人たち複数人に話を聞いたところ、検証サイトの内容とほぼ同じ理由で「後藤さんがまばたきでモールス信号を送ったことはありえないと思う」という答えが返ってきた。理由は次の通りだ。

 出回っているデマでは、瞬きの目を閉じている瞬間が単点「・」、目を開けている瞬間が長点「-」と解釈されている。しかし、この方法でモールス信号を送るのは非常に難しいという。光でモールス信号を送る場合、「長めの点灯」と「短い点灯」の2つで信号を送る。「-」も「・」も「点灯」で示し、消えている瞬間は「区切り」を示す。

 モールス信号では長点「-」を何度も繰り返し送る使い方がある。たとえば、「ア」を送りたいときの符号は「--・--」となる。しかし、目を開けている瞬間が長点、目を閉じている瞬間が単点とするなら、「-・-・」の繰り返ししか送れないことになる。長時間目を開けていることで「-」の連続を示すことはできるかもしれないが、これは読解も発信も非常に困難。

 また、実際に瞬きの目を閉じている瞬間が単点「・」、目を開けている瞬間が長点「-」として言葉を読み取ろうとしても、「見捨てろ」「助けるな」といった内容は読み取れないという。

 話を聞いたうちの一人は、「まばたきでモールス信号を送るのは、訓練をしたとしてもかなり難しいこと。たとえば『まばたきを3回したら○○の意味』などという個人的な暗号があったなら別だが、これがモールス信号とは考えにくい」と話した。

 また、神戸大学大学院工学研究科の森井昌克教授は、この内容が報じられたニュースに対してネット上で「モールス符号という用語が出ているので、情報通信研究室を主宰しているものとしての一見解です」とし、「結論から言って、無理やりな『こじつけ』ではないか、ということです」「人間は緊張すると一般的に瞬きが増え、それを繰り返しますから、『何かメッセージでは?』と読み手が強く意識して見れば、そのように思えてしまいます」(※)などとコメントしている。

※Yahoo!に配信されたFOCUS-ASIA.COM記事のオーサーコメント欄。Yahoo!ニュースは配信期間が過ぎると記事が消えるが、オーサーコメントはhttp://person.news.yahoo.co.jp/moriimasakatsu/comments/などからさかのぼって確認することができる

 大量に拡散されたデマと思われるツイートに「すごいね。さすがです」とあるように、情報を拡散した人の中には、後藤さんを称える声が少なくなかった。後藤さんの誠実な人柄を伝えるエピソードとして、善意での拡散だと思った人も多いのだろう。ただ、残念なことにデマである可能性は非常に高い。

 「後藤さんと被災地取材を共にして」(Newsweek)(http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/02/post-3537.php)など、実際に後藤さんと面識があった人が語るエピソードは、後藤さんが誠実なジャーナリストだったことを語っている。しかし「まばたきはモールス符号だった」のような事実ではないと思われる美談は危険だ。悪質なのは、後藤さんがまだ存命だと思われていた頃からこのデマが出回っていたと思われることだ。デマ元となった人は、どういった意図を持って、後藤さんが「助けるな」「見捨てろ」と伝えているとしたのだろう。

 情報を発信する側には責任がある。さらに、誰でも情報が発信できるようになったネット社会において、情報を受け取る側でも、その情報が正しいのか間違いなのか確認する力と確認しようと気付く力が必要だ。美談や陰謀論は人を惹きつける力がある。重々気を付けたい。

■修正履歴
森井教授のコメント部分の出典を明記しました(2014/02/04 12:58 編集部)

  
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