2024年4月19日(金)

田部康喜のTV読本

2015年2月25日

 「九州まで」と書いた段ボール紙を抱えて、ヒッチハイクを試みる朋美。スコールのようなにわか雨が降ってくる。両手を空に突き出すようにして、背伸びする朋美の表情には、微笑みが浮かんでいる。

 このシーンは、映画「ショーシャンクの空に」へのオマージュ(敬意)であろう。妻を殺したという無実の罪で、刑務所に何十年も服役し、脱獄に成功した元銀行役員は、練り上げた計画で下水管から脱出して外に出ると、スコールに見舞われる。着ている物を脱ぎ捨てて、朋美のように歓喜にひたる。

 鈴木京香が演じる主人公が出会う人々や、それを取り巻く光景は、「ロードサイド・ムービー」のそれである。車に限らず、列車などによって旅を続ける中で、主人公が人生の意味や家族の在り方を考え、そして人間として成長していく。

 ドイツの巨匠・ヴィム・ヴェンダーズ監督の「パリ、テキサス」はその傑作として知られる。日本なら、先ごろ亡くなった、高倉健主演の山田洋次監督の「幸せの黄色いハンカチ」である。

鈴木京香という女優が新たな領域を切り拓く

 朋美はいま、坂の上に暮らして、食事の準備がままならない高齢者のための宅配を考えて、高齢者の聞き取りや、アルバイトをしている居酒屋の主人らに相談を始めている。

 車を盗んだ桜田百音が居酒屋にやってくる。朋美が車を百音にくれたことにして、警察が事件にしなかったお礼をいいに来たのである。

 「朋美ちゃんは素敵になった。もともと素敵だったけど」

 百音もまた、佐賀県・嬉野温泉で仲居の仕事を見つけて、その合間にかつての夢だった歌手として旅館の舞台に立っていた。

 朋美がたどり着いたのは、ヒッチハイクで拾ってもらった、長崎の原爆の語り部である山岡孝吉(品川徹)の家である。山岡は小学校の教員を定年後、鍼灸院を開いて、いまは語り部に心血を注いでいる。

 この家に転がり込んだ形の朋美のもとに、不登校の高校一年生の次男・優太(濱田龍臣)がやってくる。そして、山岡の世話をしている地元の大学院生を名乗る、亀田章吾(高橋一生)との奇妙な共同生活が始まる。


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