2015年の最大の危険は、危機がサウジとヨルダンに拡散することであろう。両国への諜報および軍事的支援、また大量の難民の負担を負うヨルダンへの支援強化が不可欠である、と述べています。
出典:Richard N. Haass,‘Managing the ISIS Crisis’(Project Syndicate, February 23, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/isis-sunni-crisis-management-by-richard-n--haass-2015-02
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ここで提言されている諸点は、今までも議論されてきたことですが、概ね望ましい政策と言えるでしょう。
ただ、スンニ派諸国の多国籍軍の設立、それによる地上戦闘の実施が提言の目玉ですが、その実現可能性には疑問があります。多国籍軍を設立すれば、統一司令部を作ることになるのでしょうが、誰がこの連合軍を指揮するのか、解決困難な問題があります。
現状では、クルド正面ではクルドのペシュメルガがISに対峙しています。バグダッドやその周辺では、イラク軍とシーア派民兵が、アンバール県ではイラク軍がISと対峙している。これもこのままでやっていくよりないのではないでしょうか。特にシーア派民兵は士気も高いと聞きます。これをいま疎外するべきではないでしょう。
ヨルダンの地上軍がどう出るかは、ヨルダンが効果と費用を計算して決断するでしょう。トルコは対ISよりもアサド排除を優先しており、対IS多国籍軍に加わるとは考え難いです。そうなると、対ISの地上戦については、結局、現状のやり方しかないのではないかと思われます。
ISを封じ込めるという観点からは、人についても、資金についても、トルコによる国境封鎖が重要です。この点については、トルコにIS対策にもっと熱心になってもらう必要があります。トルコに外交的な圧力をかけていくことが望まれます。
ISについては、その支配領域を狭めること、コバニに続きモスルでも敗退させること、アンバールでも押し返すことが重要です。ISから支配領域を奪い、ネットワーク型のテロ組織にしてしまえれば、大きな成果です。ハースが心配しているサウジ、ヨルダンへの脅威も両国の存続にかかわるようなものではなく、あちこちでテロが起きるくらいの脅威に封じ込められると思われます。
なお、ハースは「今起こっていることはイスラム文明内の問題で、文明の衝突ではない」との視点を強調していますが、これは大事な点で、「ISは自由を含む西洋文明への挑戦である」などという議論はピント外れです。またイスラムの正統な宗教指導者は、我々が説得するまでもなく、ISのイスラム解釈に対抗していくでしょう。そういうことは彼らに全面的に任せておくべきで、「異教徒」による説得は、かえって逆効果になりかねません。
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