信頼した人に裏切られる
中国人の二面性
2月下旬、2週間前に中国からの撤退が終わったという中小企業社長の夏目修さん(仮名)に話を聞くことができた。製造業を営む夏目さんが中国からの撤退を決意したのは、賃金が上昇して採算が悪化したこともあったが「家族ぐるみで付き合うほど信頼していた従業員からの裏切られたこと」が主因になった。
2000年代前半に中国に進出して事業が軌道に乗ると、日本の本社で15年働いていた中国人従業員Aを、現地会社の責任者に就けた。あるとき不良品が目立つようになってきたので調べてみると、Aは自分の妻に会社を作らせたうえ、その会社を経由して質の悪い原材料を購入するようにしていた。
「はっきりとした姿勢を示さないと、彼らはどの線まで押せるのか、常に値踏みをしています」。Aに関係する人間は全て切ったものの、そのやり方を見ていた従業員がいる限り、第2のAが出てこないとはいえない。疑心暗鬼に陥った夏目さんは、撤退を決意した。
撤退にあたっては、焦らずに長期戦で臨んだ。中国では進出した外国企業に対して「二免三減」という免税制度が適用される。利益が出始めてからの所得税を2年間は免除、3年間は半額にするというものだ。ただし、10年を経たずして撤退する場合、免税分の返還を求められる。
夏目さんは、進出から10年間経過を待って撤退に向けて動き始めた。地元政府との合意については、別会社を現地にもう1社持っていたため「すんなり同意はもらえました。これが1社だけしかなかったらそうは行かなかったでしょう」。合弁相手からの同意は独資であるため必要なく、残ったのは従業員からの同意だった。
夏目さんが選んだのは「従業員の同意が得られなければ操業を続ける」という姿勢をとることだった。従業員に対しては次のように提案した。