トレーダーから生産者へ転身
シルバンがトレーダーではなく生産者を志向したのは、レアメタル市場がコモディティ化するなかで、付加価値をつけて新しい市場を開拓しなければ生き残れないと判断したからだ。80年代には電子材料や機能材料の分野でレアメタルを扱っていたピュアトレーダーが90年代になると淘汰されるようになった。
シルバンは、旧ソ連崩壊の時期、金融危機の時期、リーマンショックの時期も乗り切るばかりでなく、逆境を利用してTMPの体質改善に努めた。だが、危機は続く。
バグダッドが他界して最も厳しい時に未曽有のチタン不況が襲ってきたのだ。今年に入ってからは石油価格の暴落の先が見えない環境でTMPの2万6000トンの能力のうち、現在は僅か3分の1しか稼動していない状態まで追い込まれている。
しかし、シルバンは、チタン市場の不況は一過性だと割り切っている。不況が続けば、普通の人間なら錯乱状態になってもおかしくはないストレスに襲われる。そんな中で激しい交渉を行わなければならない。それでもネゴが終われば、シルバンは可愛い笑顔を見せる。彼の持ち味はその独特のスマイルだ。彼は根っから商売が好きで、チタンが大好きなのだろう。そうでなければ、あんな晴れやかな笑顔ができるわけはない。プロセスを楽しんでいるのに違いない。シルバンは私の商売の師匠である。
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