3月末カザフスタンのチタン工場TMP(チタンマグネシウムプラント)の50周年記念式典への招待を受けた。友人のシルバン・ゲラー会長(67)から要請されたので万難を排して出席した。TMPは世界最大規模のスポンジチタン工場である。
1960年に設立された当時は世界中のチタン需要を1社でカバーできたという冷戦の落とし子であった。原子力潜水艦一隻あたり約2万トンの金属チタンが必要だったから、旧ソ連は世界最大の能力を有するモンスター工場をこの時代に設立したのだ。
シルバンとは確か80年ごろの中国広州交易会で会ったのが初めてで、90年、旧ソ連時代のカザフのチタン工場で偶然バッタリ鉢合わせした。聞いてみると彼はチタン産業の未来に着目していてカザフのTMPに賭けてみたいというのだ。
さて、当時のTMPの社長バグダッド・M・シャヤフメトブは徹底した頑固な人物で外国人と会うことさえ嫌っていた。後で聞いた話だが、なぜか日本人のヒゲ男(私)と、ベルギー人のヒゲ男(シルバン)だけが気にいったらしい。
バグダッドは私に日本市場を任せ、シルバンに欧米市場を任せた。その後、旧ソ連の崩壊によりTMPの経営は一気に悪化したが、日本からの多額の融資やシルバンからの出資で奇跡的にサバイバルを果たした。その後の発展は破竹の勢いで、TMPのチタン原料が世界を席捲した。
96年ころ、TMPの経営方針は民営化に向かっていた。旧ソ連の崩壊から僅か5年しか経っていないチタン工場の民営化に敢然と挑戦し、TMPへの出資を決断したのがシルバンである。最終的に60%の出資を成功させた。結果としてシルバンの目論見は当たり、一介のトレーダーからバグダッドとの共同経営者にまで上り詰めた。
しかし、正にTMPが絶好調の経営環境になった2011年にバグダッドを病魔が襲った。全生涯をチタン工場に捧げたバグダッドは治る見込みの少ない癌に侵されたのである。