オーストリアのザルツブルクに本社を置くアルマメット社のアレキサンダー・ロンベルグ社長(59歳)とは25年の付き合いである。マグネシウムの取引で、ウラル地方のソリカムスクで初めて会って以来の古い友人だが、その後、彼は鉄鋼分野の脱硫剤で欧米ナンバー1の地位を築いた。
アルマメット社のロンベルグ社長(SHIGEO NAKAMURA )
オーストリアも資源貧国だからマグネシウム原料の供給基地はロシアと中国に、加工基地はトルコとルーマニアに、需要市場は欧米市場に求めた。だが、ロンベルグ氏は技術基地としての本社機能をザルツブルクから移転する気はないようだ。技術革新で先行している強みを維持するため、定期的に技術会議を行い、多くの需要家はわざわざ技術交流のためにザルツブルクまで来てくれるという。
ロンベルグ氏は成熟した実務家であり文化人でもある。その姿勢を守ってきた秘密は、ザルツブルクにいながら世界の製鉄分野を技術面で支えるニッチトップ企業を創りあげたことである。また、彼は一流のスキーヤーであり、華麗なピアニストであり、ワインの愛好家でもある。だが、それは趣味と割り切るところに彼の渋い人生観の一面を覗かせる。
一時期は事業の発展のため、本社をドイツに移す話もあったようだが、人生を楽しむことを優先させてわずか15万人の故郷に本社を置いたと笑う。
さて、日本には玉鋼(たまはがね)の伝統的製造方法がある。木炭と砂鉄を炉の中に加えながら高温と炭素の還元力により砂鉄から酸素を奪う事で「たたら吹きの玉鋼」が造られる。これが世界一の日本刀の材料の玉鋼である。