商売を始めるとき「売り上げの70%は立地で決まる」と巷では言われている。会社の成功に立地条件のよさは欠かせない。ポーランドでも同じことがいえるのだが、特に工場の建設用地選択は、インフラ整備や都市の提示する誘致条件メリットだけを考慮すると大変なことになる。
というのも、ドイツ国境に近すぎるポーランドでのリクルート状況は日本人が考えているより遥かに複雑なのだ。ポーランド西側一帯は概してインフラがよく、地理上ヨーロッパ市場にアクセスがいいため、外国投資もほぼこの地帯に集中する。しかし2004年にポーランドがEUに加盟し、他国ヨーロッパの労働市場が次々と開放されると多くのポーランド人が稼ぎのよい国へと移動した。はじめは肉体労働者が主だったが、その流れは医療従事者やIT関連者などが引き継ぎ、現在も高学歴層の頭脳流出も続いている勢いだ。
そして2011年、EU諸国の中で最後にスイス、オーストリア、そしてドイツの労働市場がポーランド人にも正式に解放された。それは国外に移民しなくても、ドイツとの国境地帯に住むポーランド人には線を踏み越えると一気に賃金が上昇する現実が待っているということだ。そうなれば、あえて国内の低賃金で働く必要はない。更に、今まで産業のなかった町では、人々の多くは季節労働者として賃金の高い外国で数カ月働き、帰国すると気ままに暮らすという生活を送っていたのだ。
そのような地域で、低賃金労働者を確保するのがいかに大変か、想像に難くない。よく見られるケースは、夏の間ドイツやオランダで農作物収穫などの単純労働に従事し、季節が終わると国内で工場の単純作業の労働者として働くというものだ。某日系企業はこのような土地に工場を建設したのだが、労働者から技術者まであらゆる人材不足にあえいでいる。日本企業というネームバリューがあるため、応募者はいるのだが長く勤まらないという。単純労働者が暖かい季節になると工場の仕事を辞め外国に出てしまうからだ。
その上、抑えた人件費は工場労働者のみならず現地マネージャーにとっても十分満足いく額ではない。有能なマネージャーの給与は現地に進出している他の外国企業も惜しまないため、一般に高めの設定なのがその事実をもっても、満足度は低く他の都市からリクルートされた管理職クラスの人材が長く居座らないという。そのような町は、税収入の低さから公共サービスや教育の質などの問題点が多いため家族を同伴できないからだ。そのためリクルートは繰り返され、会社にとって不毛なエネルギーが要求される。結局のところ、いい人材が集まるのも立地のよさが物を言うようだ。
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