2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年6月3日

 ワシントン・ポスト紙のジム・ホーグランド編集員が、4月24日付同紙掲載の論説で、地中海でのボート・ピープル問題がNATOの南側諸国の最大の関心事になり、米欧間で脅威認識に差が出ており、ウクライナと地中海危機の双方に対処し、同盟の団結を再建すべきである、と論じています。

画像:iStock

 すなわち、冷戦は欧州の大西洋アイデンティティを最重要なものにし、地中海諸国も中欧諸国も北大西洋を挟んだ安保、貿易などの交流を推進するNATOでの協力の習慣を発達させた。

 しかし、今や、地中海南部と東部での混乱は、欧州の安全保障についての考え方に変更をもたらしている。米国は米欧間で脅威意識が違ってきていることを注意すべきである。

 イタリアの友人は「最大の脅威は南から来る。地中海沿岸からの難民の波が心配である。悪夢はロシアの戦車が侵略してくることではなく、リビアのテロリストである」と述べた。フランスの議員は「ウクライナへの武器供与など誰も話題にしていない。シリアやイラクからのテロリスト監視やアフリカの混乱をどうするかを議論している」と述べた。

 多くのアメリカ人は地中海の危機は欧州に任せようとするだろう。しかし、プーチンのウクライナ侵略と不明確なNATOの対応は同盟の団結の必要性を強調している。

 NATOはウクライナに関して3つの派閥に分かれている。

 地中海諸国は、プーチンへの対応に気乗りがしていない。「対ロ経済制裁疲れ」が仏伊、さらに英国にも見られる。英国が主要な外交に出てきていないことは、欧州の大西洋アイデンティティの衰退を示している。

 ポーランドとバルト諸国は、逆の立場で、プーチンの侵略が自らに向けられかねないということで、NATOの兵力が攻撃の際に助けに来ることを確実にしようとしている。

 オバマ政権は、ポーランドなどを安心させるため航空機や兵員を彼らの領土に派遣しつつ、メルケル首相にプーチンとの交渉をまかせている。このやり方は米ロ間の緊張を抑えるメリットがあるが、プーチンの行動を止めることができていない。核兵器使用の脅威さえ言われている。

 プーチンが米欧間にくさびを打ち込むよい機会と考えるのは当然だろう。


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