2024年11月21日(木)

対談

2015年5月29日

久松:モノが売れない時代に、ね。本当にどうしたらいいんだろう。僕は「みじめなところを拾っていくしかない」って言っているんですけど、大きいところが拾えないところを地道にやっていくしかない。ペネトレーションなんて絶対にできない(笑)。

 みじめなところを、とはいっても一方ではマスマーケティングの時代も終わりつつありますよね。ということは誰だって……

小川:なんとなくわかっている。

久松:だけど、マスマーケティングには確固とした合理性はあるわけじゃないですか。その合理性を捨てるやりかたが主流になってきているとはいえ、本当に勝算はあるんでしょうか。

小川:難しいけれども、一つの例でいうと、有名なT型フォードは、まったく同じ型の車をラインで作ったんですが、それがマスマーケティングの原型です。でもトヨタは、1980年代初頭にGMと合弁提携をしていろいろな事業部を作ったんです。だから工場のラインをみるとそれぞれ別の物を作っていて、マスではあるけど個別生産になった。農業や食品の分野も同じで、違うものをラインに乗せる仕組みを作ればいいじゃないですか。大規模単一生産を否定するのではなく、それも当然のものとしてありつつ、やり方を変えていろいろな物を作ることもできる。

 農業は、ほとんど米だけをずっと作ってきたのに等しくて、利益を補助金で補填してきた。単品大量生産は、やっぱり健全ではないですよ。戦後のある時期に麦に転換したり、価格競争力では他国に負けても国産種をしっかり作っておけば、それぞれにマーケットはあったはずです。その可能性を全部捨ててしまったのは、農業政策の誤りだと思います。

久松:そうですよね。

小川:完璧に間違えたんですよ。農地改革も結果としてアメリカを利するものになってしまった。僕らは「援助物資の代わりに日本人の食を壊した!」と恨み事を言っていい(笑)。必ずしも農協のせいだけじゃなくて、アメリカの政策に厚生労働省、農水省が乗っかっちゃったせいですよ。今だって、半分くらい米の生産をやめても、政策的に調整すればなんとかなりますよ。

久松:農業基本法が1961年に施行されるまでに、50年代後半にはいろいろな議論があって、複合経営を強く主張していた官僚もいたんですけど、かき消されちゃったんですよね。それが今となっては痛恨です。でもトヨタの話は面白いですね。T型フォード的なものと、多品種農家の面倒くさい複合経営を折衷して……。

小川:T型フォードの世界を降りてもマス的な方法はあるんですよ。今、農業で面白いことをやっている人はみな複合経営で、花を作っている人だっていますよね。それは土地にとってもいいし、経営的にも安定する。


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