久松:ただし、スケールアップしない。
小川:そうです。言いたいことはわかります。アンスケーリングで、効率は悪いですよ。大規模化には向かない。そこをどうやって打破するかでしょう。でも世界はみんなアンスケーリングモデルに移行しつつある。もう一つ付け加えると、日本の産業界は戦後70年ずっと欧米のモデルでやってきたけど、立ち止まって見ると、小売業でもファストフードでも日本発ビジネスモデルはかなりいい線をいっています。見てくださいよ、うどん屋もラーメン屋も、ちゃんとグローバルチェーンになっていますよ。
久松:世界に出ていますよね。
小川:最初のベースはアメリカのチェーンストアだったかもしれないけど、中身は日本式です。コンビニだってセブンイレブンやローソンがアメリカから来た時って、現在の姿とはほど遠いですよね。雑貨屋とたばこ、ドリンク、氷を売る店だったじゃないですか。それを日本人が変えた。
農業もアメリカのモデルが強いんだとみんな思っているけど、日本でアメリカ式農業をやってもしょうがない。まだヨーロッパかも知れないけど、やっぱり風土が違う。日本モデルがあるだろうと思うんです。
リーン・スタートアップと改善力
久松:知人の飲食店プロデューサーに聞いた話なんですけど、東南アジアの資本が自国で出店する際に、日本の企業にサポートを依頼することが増えているらしいんです。既存のモデルを現場で揉んで、新しい市場に適応できるように作り変えるのが日本人はうまい、と評価されている。イタリアの「ピッツァ」を「ピザ」にして世界食に変えたアメリカが果たした役割が、今は日本に期待されているというんですね。店舗での人材教育も含めて、ジャパナイズがグローバライズになる、そこに可能性を感じますよね。
小川:そうそう。フードビジネスはみな最初はマクドナルドのチェーン理論やセントラルキッチンのモデルを真似て、それをどんどん変えていったんですよね。変えて成功したところが残り、人材も輩出している。マクドナルドの人材は各所に散らばっているんですよ。回転寿司だっているし、食品業界は社長から上級幹部から、マック出身者は多いんですよ。
久松:なるほど。
小川:セントラルキッチンを運営するノウハウや、人を使うノウハウは、ものすごい知恵の塊なんですよ。とはいえ地域や人や扱う材料が変われば、それなりに変わっていく。トヨタやパナソニック、ソニーがやってきたような、現場での改善ですよ。工場でやっていたことが、恐らくフードビジネスにも生きているんだと思います。
久松:改善力。
小川:メーカーも同じですよね。『マクドナルド 失敗の本質』に書かなかったことがひとつあって、それは日本のコンビニが成功した理由なんです。大手コンビニが使うチーム・マーチャンダイジングは、取引先メーカーとチームを組んで商品開発する手法ですけど、要するに他人のフンドシなんですよね。原材料の種子から冷蔵や運送のノウハウまで、あれ人のふんどしなんだよ、結局。日本の食品メーカーは声高には言わないけど非常に素晴らしいノウハウを持っている。それをセブンイレブンもローソンも利用しているし、サイゼリヤのようなフードチェーンも利用しているわけです。少なくとも日本で商売する限りにおいては、アメリカよりもずっと進んだノウハウを持っているし、欧米のモデルを改善する力もある。たとえばフィットネスクラブのカーブスも、アメリカのモデルを日本に合った、低投資モデルに改善して成功しています。初期投資の大きいフィットネスチェーンは軒並み苦戦しています。
フードチェーンでも初期投資が小さくて済むところが店舗数を伸ばしています。マクドナルドはフライヤーが必要だから大きなキッチンと設備が欠かせないけど、サブウェイはサンドイッチを挟むだけだから、小さなスペースでできる。大きくて重いモデルは苦しくなっているんですよ。農業も軽いほうがいいですよ。