久松:それは僕も、まったくそう思います。技術がない新規就農者に2000万円も借金させるとか、馬鹿だって思いますもん。
小川:3ケタの初期投資でいけるようにしないとダメってことだよね。
久松:僕は150万円で始めたけど、まあ、あまり安いのも……。
小川:そうね、でも1000万円以下で始めないと農業だってダメだと思います。ほかのサービス業も同じですよ。軽くスタートして、あとは久松さんがやったようにやりながら少しずつ変えていけばいいんですよ。そして成功した人はノウハウの塊なんだから、次の人に伝えていけばいい。
小さなプレイヤーたちのボランタリーチェーン
久松:それは本当にそうですね。僕は今、BtoBやBtoCをやっている小さな農家の業務部分のノウハウを広めることをビジネスとしてやろうと思っているんです。農業サポートというと、栽培面ばかりに注目しがちですが、栽培はお手本もいっぱいあるし、それぞれ自分の好きなこと、得意なことを探してやればいいと思っているんですよ。でも独自の販売をしようとすると、栽培以外のところでつまづく。とくにBtoCの業務は煩雑で、その人の強みや個性を発揮する余裕を奪ってしまうんです。
今はものすごく高くて使いにくい業務支援サービスも、クラウドを使うとかなり安く、使いやすくできるんですよね。そこが肝なんじゃないかなって。それができると、ビジネスの幅が広がります。たとえば稲作は、大規模化しか道はないように言われてますが、特色を出してBtoCをやる方法もあるんです。農業は、これまでは栽培以外の部分をノウハウ化してこなかったので、それがビジネスの可能性を狭めてしまっているんです。
小川:マネジメントやオペレーションのノウハウですよね。そこにはITがいくつも埋め込まれていますからね。作り手はもっとも不得意な分野でしょ。嫌だしね。
久松:そう、嫌なんですよ。
小川:ただの共通部分だから楽しくない。それはワンストップで教えてもらうか、業務委託するか、ですかね。
久松:そうなんですよ。自分でノウハウ化できなければアウトソーシングしたほうがいいですよ。
小川:それで思い出したけど、いま歯科医院の経営環境がすごく厳しいですよね。でも、歯科医も農家と一緒で、経営や設備投資は得意じゃない。
久松:歯学部で経営は教えていないでしょうしね。
小川:そう、それで経営部分をITで共有してサポートするビジネスをやっている人がいる。100店舗くらいサポートしていて、機器とかもまとめて購入してコストを下げたりしているんです。その100店舗は一種のボランタリーチェーンみたいになっていますね。
久松:まさにそれに近いことをやれればと思っています。大企業は自社でビジネスプロセスを研究するチームが持てる。でもスケールアップしないプレイヤーは、自社に研究チームは持てないじゃないですか。だからアウトソースで受ける側がビジネスとして成立しないと、小さいプレイヤーの時代はやって来ないわけですよね。そのビジネス環境を変えないといけないんですけど、現場感覚があって、かつ業界を俯瞰できて、ITの人たちとの意思疎通ができる人が育ってこないといけない。そこが農業界全体としてアンスケーリングモデルが成立するかどうかのポイントではないかと。