チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年6月3日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 陸軍に関する記述は、主として陸軍内の統合作戦能力の向上を指示するものだ。「地域防衛型から全域機動型への転換を実現する」という「全域」は、世界ではなく中国全土を意味している。2014年7月から3カ月にわたって行われた軍事演習は、部隊を全国に展開する訓練を重要な演練項目としていた。

 さらに、国防白書は、「小型化、多機能化、モジュール化の歩みを加速する」としている。陸軍は、拡大ではなく、効率化を求められているのだと言える。しかし、モジュール化して機動力を向上させることは、他国に展開する能力の向上にもつながる。戦略ミサイル部隊である第二砲兵は、特に顕著な拡大や変化が求められている訳ではない。毛沢東は、すでに1950年代には核抑止の重要性を説き、核兵器や戦略原潜の開発・配備を指示している。

 第二砲兵は、1984年までその存在が秘密にされ、他の軍種が、中央軍事委員会が指導する四総部(総政治部、総参謀部、総装備部、総後勤部)の管理・指揮を受けるのに対し、中央軍事委員会の指揮を直接受ける。そもそも、核兵力は特別に扱われてきたのだ。対米核抑止を担うその地位に変わりはない。

南シナ海で中国と米国は衝突コースにある
周辺国を巻き込む可能性

 国防白書の中に「軍事闘争準備」が挙げられていることから、中国が武力行使を考え始めたと捉える向きもある。しかし、内容を見ると、2012年末に習主席が人民解放軍に対して行った「戦えるようになれ、勝てる戦いをしろ」という指示を実現しろ、という意味であることが理解できる。

 「戦争準備」は、2013年の国防白書にも明記されている。習主席の指示が2012年であるから、当然、反映されているのだ。しかし、たとえ中国が今すぐに戦争を起こす意図がないとしても、安心していて良いわけではない。

 中国は、もはや、自らが台頭していることを否定しない。今後、国際社会の中で主要な位置を占めることを自認し、他国にも認めさせようとしている。戦後70周年の軍事パレードも、国際社会において中国が主導的位置を占めることの正統性を示すためのものだ。

 実力をつけつつある中国は、南シナ海で米国との衝突コースにいる。米中とも、南シナ海における双方の主張が自国の安全保障の根幹に関わるものだけに譲ることはできない。台頭する中国は、米国との対立を鮮明にし、周辺諸国を巻き込んだ衝突を起こすかもしれない。

  
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