ロシアの対日姿勢の変化と本質
ここで注目されるのが、日本の位置づけである。朝鮮半島やインドシナ半島が将来的なパートナーとして挙げられているにもかかわらず、カラガノフ教授の構想には日本が含まれていない。ユーラシア大陸の域外であるから、というだけがその理由ではないだろう。再びロシアの対外政策文書に関して言えば、ロシア政府は常に中国、インド、ヴェトナムの3カ国をアジアにおける「戦略的パートナー」として別格扱いとし、これに日本や韓国が続くというのが常である。また、これまでもロシアは「相対化」戦略の一環として、あるいはシベリア・極東開発のために日本との関係を重視してきた。
しかし、中露接近の中で、ロシアのこうした姿勢には若干の変化が見られる。昨年、中露が実施した合同海上演習では、日中の領土問題に深入りしないというこれまでのロシアの立場を踏み越え、東シナ海北部(つまり尖閣諸島付近)が初めて実施海域となった(ただし、あくまでも海域は東シナ海の北部に限定され、尖閣の至近には立ち入らなかった)。
また、冒頭で述べた戦勝記念パレードでは、プーチン大統領の演説に「ファシズム」と並んで「日本軍国主義」の語が初めて登場した。さらに中露は今年9月、北京で開催される対日戦勝記念式典を合同で実施するとしており、歴史問題でも中国に歩調を合わせつつある可能性がある。ロシアが西側から孤立する中で、中国に対する依存度は(どれほど「相対化」を図ろうとも)高まっていると見られるが、こうした中でロシアが中国に飲まされた条件の一つが、対日関係の再調整である可能性は高い。
もっとも、これは対日関係でロシアが全面的に中国の側に立ったことを意味するものでもない。中国に対する「相対化」を図る上で、中国との関係が冷却化している日本と一定の関係を保っておくことは、ロシア側にとって一定の利益となると考えられるためである。困難な日露関係の中でもロシア側がプーチン大統領の年内訪日を模索し続けていることは、その一つの証左と言えよう。だが、裏を返せば、ロシアにとっての対日関係の意義は、中国に引きずられすぎないようにするためのアンカーの一つに留まる、とも言えるだろう。
では、こうした「相対化」戦略をロシアは具体的にどのように進めようとしているのだろうか。この点に関して次回の小欄では、上海協力機構(SCO)とBRICsを軸にカラガノフ教授の見解を紹介し、今年7月に迫った両機構の合同サミットについて展望してみたい。
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