2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2015年7月2日

増える紙と電子の同時発売

 数年前は紙と電子を同時に出すと、「紙が電子に食われて売り上げが落ちる」ことを心配する出版社が多かったが、最近は「同時に出すことによる相乗効果」を期待するところが多くなっている。コミックは数年前から同時発売が当たり前になり、雑誌、単行本などのジャンルでも同時発売が増えてきている。

 会社全体で電子化を推進している講談社は「同時発売にしたことで電子書籍の売り上げが増え、14年は13年と比較して電子書籍事業は6割伸びた。これからは宣伝ではないプロモーションを積極的に行い、SNS(ソーシャルネットワークシステム)なども使いながら、多くの人に発売されたことを気付いてもらえるような方法を考えたい」(吉村浩・デジタル・国際ビジネス局次長)と話す。昨年ヒットした小説では池井戸潤の「ルーズヴェルト・ゲーム」「鉄の骨」などが売れたという。

 それでも新潮社で電子書籍を長年、手掛けてきた柴田静也開発部長は「コミックはまだ伸びる要素はあるが、文字ものは厳しいのではないか。大量の出版物が出る中で小さな電子画面に発売したことを知らせるのは不可能で、多くの本を並べて見せられる書店と比べて圧倒的に不利だ」と指摘する。昨年ヒットした本では、初版は1986年から92年にかけて刊行されたものだが、沢木耕太郎の「深夜特急」が良く出たという。

 新潮社は同社のWebサイトで展開した村上春樹の質問&回答集「村上さんのところ」を、今年7月に紙と電子書籍で発売する。村上作品は英訳された電子書籍はあるが、日本語での電子化作品はこれが初めてという。小説の分野では作家の多くが作品の電子書籍化に抵抗感がなくなってはきているが、東野圭吾、宮部みゆきといった人気作家は依然としてヒット作品の多くは紙に限定している。このため、読者からは「読みたい本が電子化されていない」という不満がある。


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