しかし、幾つかの情報筋によると、サウジアラビアは事実上、このコンプレクスの見込み顧客リストに載っている。理屈の上では、この契約に調印することに対する障害は存在していない。「イスカンデル」コンプレクスは外国の発注者に対して輸出が許可された製品のリストに掲載されているためである。
(中略)
本紙の情報源によると、リヤドへの「イスカンデル」供与に関する決断は近いうちに下されるであろうとのことだ。製造元である機械製作設計局(KBM)はロシア国防省の発注をこなしており(2020年までに120コンプレクスが配備される)、したがって外国からの発注を履行できるのは2016-2017年以降になる。「現在、サウジアラビアには真剣な意図があると理解している」と軍事技術当局(訳註:武器輸出行政を監督する軍技術協力庁を指す)の関係筋は本紙に語った。
(引用終わり)
以上のように、サウジアラビアは西側から経済制裁を受け、投資先としての信頼度が低下しているロシアに経済協力を梃子として急接近しようとしている。さらにサウジアラビアがもう一つの梃子としようとしているのがロシア製武器の輸入だ。
サウジアラビアがロシア製兵器を購入するという話はこれが最初ではない。たとえば2008年には、サウジアラビアは、T-90戦車、BMP-3歩兵戦闘車、ブーク-M2防空システム、ヘリコプターなどをロシアから大量に輸入する意向を見せていた。これは当時、イランの核開発問題を巡ってロシアにイラン支援を手控えさせる「餌」であったと考えられる。
さらに2013年には、サウジアラビア情報庁長官のバンダル王子がモスクワを訪問し、100億ドルもの武器購入を持ちかけたとの情報が報じられている。これは当時のロシアの年間武器輸出総額にも相当する莫大な金額だ。当時、間近に迫っていたと見られるシリア空爆を巡り、ここでもロシアがシリア支援から手を引かせる意図があったと言われる。
ただ、これらの武器輸出話は結果的にどれも実現しなかった。ロシアにしてみれば、イランやシリアは中東におけるロシアの影響力を確保するための重要前哨拠点であり、武器輸出の利益程度で見捨てられる相手ではなかったためである。一方、サウジアラビアにしてみても、ロシアの武器やロシアとの協力関係そのものを欲しているわけではなく、あくまでも同国の対中東戦略としてロシアの立場を自国に都合の良いように変化させることが主眼であった。