2024年11月16日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月22日

 米ジョンホプキンス大学SAIS校長で中東の専門家のVali R. Nasrが、4月14日付のニューヨーク・タイムズ紙で、サウジアラビアと湾岸のスンニ派同盟国は、イランと「P5+1」との核に関する合意成立の見通しに震えおののいているが、その恐れは根拠がない、と述べています。

画像:iStock

 すなわち、イランとの核に関する最終合意は、中東全域が、不安定の真の原因に対処する時間を与えてくれる。真の原因とは、脆弱な国に多元的な政府がないことである。その是正には、20世紀から引き継いだ国内の政治的分裂を解決する時間が要る。今回の枠組み合意はその時間を与える。特にイランが世界経済に再統合され、イランの外交が穏健化すればそうである。

 これまでのところアラブ諸国はまったく逆の論理の上に立って行動している。

 アラブ諸国は国内の不安定の主たる原因はイランの介入で、イランは手におえないほど攻撃的だと考えている。したがってイランには常に対決し、イランに核能力を少しでも認めるようなことはあまりにも危険である、と思っている。

 例えば、サウジアラビアと同盟国は、イエメンの危機はイランのせいだと非難する。実際はイエメンでは民族的抗争が何十年も続いているのにも関わらずである。サウジアラビアなどが最も恐れているのは、イランが核兵器能力を持って無敵となることである。したがって彼らはイエメンの紛争を、イランの影響力の拡大を阻止するために利用している。

 しかしこの戦略は逆効果である。戦略は地域の宗派、部族、民族間の分裂を強めるだけで、イランは核を背景に一層力を増そうとするだろう。

 したがって、イランの核能力への歩みを10~15年遅らせることは、イランに戦略的優位を与えないためはるかにいい方法である。

 現実を直視すれば、中東の中心は崩壊した。危機は地域の不安定性に根差すものであり、今後も続くだろう。

 リビア、イエメン、シリアといった破綻国家は内戦、過激派の反乱、宗派闘争の舞台となり、機能する政府樹立のための政治的交渉ではなく、暴力の拡大が続く限り、紛争国で権力を奪取しようとするシーア派勢力はイランの支援を求める。イランはアラブの秩序の崩壊に乗じて勢力を伸ばす。

 正解は、イランが世界経済との再統合を求める間に、アラブ諸国の経済的活力と政治的団結の強化に努めることである。そうすればイランが中東諸国の内政に干渉する機会を大幅に減らすことができる。


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