現場で事故処理が行われ、レンタカーはレッカー車で運ばれた。何事かと周囲に人が集まりだし、オバリー氏はピースポーズを示して住民におどけて見せた。
イルカ漁が始まり、のどかな町には警察官と外国人活動家が往来し、住民らはこの時期、タダでさえナーバスになる。オバリー氏が引き起こした度重なる騒動について、地元住民は「もうほとほとあきれ果ててる。はやく出て行ってほしい」と嘆いた。
オバリー氏を一躍有名にした「ザ・コーヴ」は公開後すぐに事実誤認にまみれていることがわかった。日本語版上映の際、日本の制作会社が明らかに間違いの部分を省くという修正を行ったほどだ。あらゆるシーンの検証の結果、ルイ・シホヨス監督らは、撮影された時期も場所も異なる映像素材を組み替えて編集してあるはずもない場面を生み出したり、CGを駆使して虚像を作り出したりした疑いも浮上した。
当の本人のオバリー氏はそうしたトリックのあるザ・コーヴの弱点があることを見越し、一切制作には関与していないという立場を取り続けた。「私は漁師に自分の価値観を押付けたことは1度もない。私は映画の出演に応じただけだ」と逃げをうち、さらに住民らの不信感を増幅させた。
オバリー氏が太地町を訪れるようになってもう12年になる。しかし、もう何年も太地町の住民はオバリー氏とまともな会話をしていないのではないか。あの手この手で漁を止めさせようとしたが、漁師たちは合法で持続的可能な捕獲量で行われている漁を決して止めるつもりはない。むしろ、地元の漁師たちはオバリー氏やシー・シェパードのような「外敵」がいるからこそ結束し、食文化を守るための営みを次世代にもつなごうとする気概にあふれている。
しかしながら、オバリー氏が派手な立ち回りをすればするほど、支持者たちからの寄付金が彼の懐に落ちるビジネスモデルが成立してしまっている。支持者たちは、太地にこだわるオバリー氏の執念を褒め称える。しかし、住民たちは「オバリー氏はイルカ保護という利権を守っているのだ」と非難している。
イルカ漁をめぐる不毛な騒動は今後も続いていく。太地を訪れ、パフォーマンスを行う活動家たちは自分たちの行動が反発を呼ぶだけで、むしろイルカ漁の停止から遠のかせてることに気付いていない。
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