ところが、3日後の週が明けた月曜日、大使就任は真っ赤なウソだったことがわかる。31日朝、佃市長は声明を出し、「親善大使に任命した事実はありません」と完全否定した。市側はオバリー氏と元漁師に抗議して、公式サイトから「大使任命」の誤った情報の即時削除を要請した。
佃市長は相当に脇が甘かった。オバリー氏の言われなき非難に悩んできた太地町の住民だけでなく、永田町や霞ヶ関の関係者にも多大なる不信感を抱かせた。どんなに弁明してもオバリー氏を市役所に招き入れ、記念写真を撮影したことは明かな事実だからだ。少し調べれば、オバリー氏がこれまでも何度も騒動を引き起こしてきた「要注意人物」(治安関係者)であることがわかったはずだ。
問題はオバリー氏サイドが情報の削除には応じたものの、なぜ削除したかの説明責任や混乱を引き起こした謝罪を一切していないことだ。この騒動は表面上まるでなかったかのようになっている。
しかし、英語のサイトでは9月に入ってからも「オバリー氏、伊東市大使就任」の情報は出回っている。伊東市側も「英語での声明を発表するつもりはない」としており、積極的にこのスキャンダルの火消しを行っているようには見えない。
イルカ漁問題はこれまでもこうして、オバリー氏のような活動家が横のものを縦にするような虚偽の情報を流布し、その情報を海外の人々が正しい情報として受け入れ、漁師に対する非難のボルテージを上げるという負のサイクルが続いてきた。支持者はカリスマが物事を歪めて伝える情報に、煽動された。
オバリー氏がなぜ「親善大使任命」などと高らかにうたったかは不明だが、伊東市長との面会を利用して、自身の行動に箔をつけようとした意思があったことは間違いない。
和歌山では飲酒運転
そうして、オバリー氏は9月1日の漁解禁にあわせて太地町に乗り込んできた。毎年9月1日には、追い込み漁が行われる入り江で支持者らと一緒に「イルカを救え」パフォーマンスを行うことになっている。常宿は近接する那智勝浦町の高級温泉ホテルだ。「オバリー氏は、豪華な宿泊費さえもイルカ漁の漁師を虐めて得た寄付金から払っている」。オバリー氏の行動を煙たがる漁業関係者はこう揶揄する。
前日の夜、オバリー氏は自らレンタカーを運転して、那智勝浦町内の居酒屋に1人で出かけた。翌日のパフォーマンスのための景気づけだったのだろう。ビールを飲んで食事をして、2軒目の中華料理屋にも出向いた。そうして、ほろ酔い気分でホテルへ帰ろうとした。
ところがその様子を見ていた地元民がいた。「オバリー氏が酒を飲んで、車を運転している」。この情報を和歌山県警新宮署に通報した。