9月1日は、警察にとっても警戒を強める日だ。海外から訪れる活動家が不測の事態を起こす恐れがある。米国や英国などでは動物を守るためなら人間に危害を加えることも厭わない「環境テロ」が社会問題化していた。警察や海上保安庁は海外での事例を研究し、毎年、訓練を行って警護態勢を強化していた。
通報を受けた新宮署の警察官はオバリー氏に職務質問した。すぐに呼気検査を実施した。だが、摘発するレベルのアルコール分は検出されなかった。警察官は身分証明書の提示を求めた。しかし、このとき、オバリー氏は運転免許証も旅券も所持していなかった。
治安が悪化している国ではこの時点で不審人物と判断され、署に連行されるケースも多いだろう。しかしここは日本だ。警察官はオバリー氏に、ホテルにいったん戻って旅券や運転免許証を取ってくるようやんわりと促した。
ところが、オバリー氏はこの提案を拒否した。頑な態度をふまえ、新宮署は厳格に法を執行することを決めた。出入国管理法違反(旅券不携帯)の現行犯逮捕。そうして「オバリー容疑者」は署に連行された。警察幹部は「オバリー氏には遵法精神がみられない」と語った。
米アカデミー賞作品主演活動家の逮捕のニュースは国内外の通信社が「速報」で報じた。支持者たちは警察の姿勢に反発した。「なんと馬鹿げたことだ!」「警察は即座に釈放せよ」「むかつく。だから日本はきらいなんだ」
自らも「イルカ漁について明確に反対する」と言う脳科学者の茂木健一郎氏も不快感を示した。「オバリー氏逮捕」のニュースを目の当たりにし、ツイッターでこうつぶやいた。
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「『ザ・コーヴ』の監督(★ママ)の逮捕、形式的には違法なのかもしれないが(旅行者に常に旅券の携帯を求めるという法律自体問題で、提示を求められたら近隣の警察署で二日以内に示す、といった条文が妥当だと思う)、諸外国に対しては日本の市民的自由について、むしろネガティヴな印象を与えると思う」
茂木氏はさらに「京都を歩いている家族連れの外国人旅行者が、旅券不携帯で逮捕されることはないでしょう」ともつぶやき、和歌山県警の姿勢を暗に非難した。
しかし、交通事故が多発し、飲酒運転には厳格な取り締り規制を敷いている日本で、運転免許証も持たずに居酒屋に行き、酒を飲んで帰りも平気で車を運転している人がいるのであれば摘発するのは当然ではないか。この時のオバリー氏の態度は、「京都を歩いている家族連れの外国人旅行者」とは違うのである。
オバリー氏は警察署でお灸を据えられて、1日後の9月1日夜に釈放された。入り江でのパフォーマンスは主役抜きで行われていた。娑婆に出た後、オバリー氏は吠えた。団体のHPにはこんな声明が掲載された。