2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月15日

出 典:Washington Post ‘Mr. Putin makes moves in Syria, exploiting America’s inaction’(September 8, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/mr-putin-makes-moves-in-syria-exploiting-us-inaction/2015/09/08/cd9fbe80-5648-11e5-abe9-27d53f250b11_story.html

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 報じられるところによれば、ロシアは地中海沿岸のラタキアの南の空港に1000人の要員を収容可能なプレハブの建物および移動可能な航空管制装置を持ち込んだとされます。これは、軍事顧問あるいは軍事要員を展開し、また、シリアのアサド政権支援の目的で作戦を行う航空機を配備する準備ではないかとされ、ロシアの意図は明らかではないものの、何らかの前線基地を構築しつつあると見られています。

 ケリー米国務長官の警告に対して、ラブロフ露外相は、ロシアがシリアの正統政府であるアサド政権に対してテロ組織との戦いのために軍事援助を行ってきていることは周知のことだと述べたと言われますが、ロシアが行っていることは従来の軍事援助とは質的に異なるものです。ロシアがこういう挙に出た背景は、アサド政権の弱体化が進んでいることへの懸念、また最近トルコが対IS作戦の有志連合に参加したことに見られる西側の対シリア戦略の整備についてのある種の過大評価があるのかも知れません。

 この社説は、オバマ政権のシリア情勢に対する微温的対応が今回のロシアの動きを誘発したとします。オバマ政権の微温的対応が情勢の悪化を招いたとはしきりにいわれる批判です。2013年にアサド政権が化学兵器を使用した際に武力行使に踏み切り、また反体制派に武器供与を含む強力な支援をしていれば、過激派がこれほどの地歩を得ることはなかっただろうし、これほど大量の難民・移民がシリアから出ることもなかっただろうという論をなす向きもあります。

 しかし、過去を云々しても始まりません。上記ワシントン・ポスト紙の社説は、ロシアの動きに対して米国がどうすべきかについて何も言っていません。妙案がないのだと思いますが、事態の複雑化が懸念されます。ロシアの庇護をたのんでアサドの軍が攻勢に出れば戦闘が激化します。そうすれば難民・移民が増えます。シリアから既に400万人以上が外国に流出しているといいます。情勢が劇的に改善することが期待出来ない以上、欧州への難民・移民の流入は今後も止まらないのではないでしょうか。

 極端なことを言えば、そうなると単なる難民・移民問題ではなくて、シリア国民の離散、つまりディアスポラ(diaspora)という状況を現出する可能性すらあるのではないでしょうか。そのことは人材の流出をも意味し、いずれアサド後のシリア再建に支障をきたすかも知れません。

  
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