最大の批判者は現在共和党大統領候補としてトップ支持率のドナルド・トランプ氏で、「TPPにより小規模ビジネス、農家、生産業者などが不公平な競争にさらされ、安価な労働力が米国民の仕事を奪い、経済が混乱する」と舌鋒鋭く批判している。
米国には1994年に締結された北米自由貿易協定(NAFTA)による苦い経験がある。カナダ、米国、メキシコの3カ国間で結ばれた協定により、米の大手企業の多くが安価な労働力が求められるメキシコ国内に工場を建設、結果として米労働市場が損なわれた。TPPはNAFTAの失敗を拡大するだけの結果となる、という見方は米国内には根強い。
「中国によるアジア市場の制圧」を回避
それでもTPP合意が評価されるのは、「中国によるアジア市場の制圧」を回避した、という見方があるためだ。米国が現在アジア圏の国々と関わる協定はASEANのみだ。TPPに積極的に参入することで、中国が同様の自由貿易圏をアジアに構築し、経済主導権を握る可能性を抑制した結果となる。
ジョン・ケリー国務長官は「TPPは即時性のあるポジティブな影響を米経済に及ぼし、長い目で見ればアジア太平洋圏と米国の経済的、戦略的関係を強化する」と語り、米国防省アッシュ・カーター長官も「TPPは地域的格差を縮小し、世界の中で急速な成長を見せる地域での米国の影響力、指導力を固める存在となる」と語った。
米国がTPP参加を表明したことで、それまで参加を渋っていた日本を引き込み、韓国とは二カ国間協定を結ぶ結果になったことも米国にとっては大きい。
今後来年の下院承認をめぐり、国内ではさらに賛否両論が噴出し、一大議論に発展しそうだ。「環太平洋での主権」という名目を優先するのか、経済面でのデメリットが優勢となるのか、今後の議論の行方に注目が集まる。
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