2024年12月12日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年10月15日

 2015年9月25日にワシントンで開かれた米中首脳会談は、習近平夫妻訪米中の民間との交流活動等と併せて、中国では「米中協力」の象徴のように報道された。中国は、米国から一方的に非難される状況を避け、米中が軍事衝突を回避する意図を見せ、米中の協調的姿勢を強調したかったのだ。

 実際、米中首脳会談では、サイバー問題に関して、「両国政府は知的財産に対するサイバー攻撃を実行、支援しない」こと、軍事分野では、「空軍間の偶発的衝突回避のための行動規範」、経済分野においては、「米中投資協定の交渉を加速する」こと、気候変動についても、「中国が2017年に全国で排出量取引を導入」することが合意された。

首脳会談での「米中協調」はみせかけか?(Getty Images)

 しかし、中国が強調する「米中協調」を鵜呑みにする訳にはいかないだろう。問題は、サイバー問題や軍事分野における合意が、何ら問題の解決になっていないことだ。それどころか、米国にとっては、中国との衝突に備える内容になっているのではないか、とさえ思える。

 サイバー攻撃に関して、安全保障上のオペレーションや軍事行動に直結するオペレーションに、全く触れられなかった。その結果、米国は中国とのサイバー戦に備えることになるだろう。もともと、米国は、中国に対して、安全保障に関する情報収集を目的とするサイバー攻撃について非難したことはない。

 米国にとって、安全保障に必要な情報収集は、行われて当然の行為なのだ。米国が、中国のサイバー攻撃を許せないのは、産業スパイのように米国企業に実質的な損失を与えたり、「米国の目を潰す」衛星に対する攻撃のように安全保障環境を悪化させるものであったりするからだ。

中国によるサイバー窃盗に「怒りを露わにする」

 相手国が米国の安全を脅かさない限り相手国に損失を与えず、また、自ら安全保障環境を悪化させることのない、米国のサイバー攻撃とは目的が異なる、という訳である。米国務省顧問のスーザン・ライスは、米中首脳会談に先立つ8月28日に訪中し、習近平主席をはじめ、範長龍中央軍事委員会副主席らと会談した 。中央軍事委員会副主席と会談したことからも、彼女の訪中の主な目的の一つが、安全保障に関わるものであったことは明らかである。

 このとき、彼女は、習近平主席に対して、中国の米国に対するサイバー攻撃に関する詳細な証拠を提示し、中国が米国に対するサイバー攻撃を止めるよう要求したと言われる。しかし、中国は結局、譲歩しなかったようだ。会談後の彼女の発言が、中国のサイバー攻撃を強く非難するものだったからである。

 2015年9月21日に、ジョージ・ワシントン大学で行ったスピーチにおいて、彼女は、中国政府が関与した莫大な数のサイバー窃盗について、「イラついている」と、怒りを露わにした 。彼女は、「これは、経済的かつ安全保障に関わる問題である」とし、「米中二国間に極めて強い緊張を生んでいる」と、中国を非難した。米中首脳会談前に、中国をけん制したものでもある。

 中国は、「中国もサイバー攻撃の被害者である」と繰り返す。中国にとってみれば、産業スパイも、自国の安全保障に直結する問題である。中国には近代化された武器を製造する技術はない。ここからの理論の展開が、日本や米国とは異なる。中国は、最新技術を手に入れる他の手段がないのだから、サイバー攻撃によって窃取しても仕方がない、ということになる。権利意識が先に立つのだ。

 中国は、もちろん、自らがサイバー攻撃による産業スパイに加担しているなどとは言わない。産業スパイが違法だということは理解しているからだ。しかし、実際に口に出さなくとも、同様にサイバー攻撃を世界各国に仕掛けている米国なら、中国の言わんとするところは理解できる、と考えているのではないかとさえ思わされる。建前と本音を使い分けているつもりなのだ。

 日本人には理解されにくいかもしれないが、米国にもその他の国にも、建前と本音はある。それでも、米国の本音は、中国が考えているものとは異なる。中国が、美しい正論で飾った表向きの議論とは別に、水面下で米国と手打ちが出来ると考えているとしたら、危険な目に会うのは中国の方である。


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