サイバー攻撃とサイバー防御を統合
米国は、口で言っても中国が理解しないのであれば、実力をもって分からせようとするだろう。2015年5月に、米軍はコンピューター・ネットワーク空間の専門部隊「サイバーコマンド」を発足させた。この部隊は同年10月から本格運用されたが、この部隊が展開する作戦の本質は、「攻守の統合」である。
同じ10月、JTF-GNO(Joint Task Force – Global Network Operations:米軍情報通信網の防護を専門にする部隊)がサイバーコマンドに編入・統合されたことを記念する式典において、核戦力なども統括する戦略軍司令官ケビン・チルトン空軍大将は、「我々はこれまでネットワークの防護と攻撃の機能を分けて考えてきた。しかし陸海空軍では防護と攻撃は一体だ。新コマンドの立ち上げで、攻守の任務を統合する」と述べたと報じられている。
米国は、サイバー攻撃とサイバー防御を統合し、その境界をなくす。サイバー攻撃は、サイバー・オペレーションの一部として、今後、さらに積極的に展開されていくことになる。中国が、米国が許容できないサイバー攻撃を止めないのであれば、米国は、中国に対するサイバー攻撃を強化し、「中国に身をもって教えてやる」ということだ。
世界でサイバー戦を戦う米国
米国は、サイバー・オペレーションに関して、同盟国との協力の強化も追及している。カーター米国防長官は、2015年6月24日、NATOのサイバー・ディフェンスにおける協力の強化を訴えた 。米国のNATOとのサイバー・ディフェンスに関する協力は、ロシアをにらんだものである。ウクライナのクリムキン外相は、2015年3月に訪日した際、ロシアは、正規軍や民兵、情報操作、経済的圧力などを組み合わせた「ハイブリッド戦争」をしかけていると述べている 。
米国は、世界でサイバー戦を戦っている。いや、サイバー・スペースは、時間や地理的距離の束縛を受けない。世界であろうが、限られた地域であろうが、ネットワークに接続されていれば関係ないのだ。サイバー戦を戦うためには、ネットワーク上にある各国との協力が不可欠である。
それにもかかわらず、米国とNATOのサイバー・ディフェンスに関する協力が主としてロシアを対象にしたものになっているのは、現在の軍事作戦では、サイバー攻撃が実際の軍事攻撃等と複合して用いられるためであり、欧州諸国に対する軍事的脅威がロシアだからである。
現在の戦闘は、ネットワークによる情報共有や指揮を基礎にしている。実際の戦闘では、指揮・通信・情報に関わるシステムやネットワークを無効化することが、第一に行われる。その手段が、ジャミング(電子妨害)であり、サイバー攻撃である。実際の武器とサイバー攻撃は、複合されて使用されるのだ。ハイブリッド戦が通常の戦闘になっている現在、サイバー攻撃に対する脅威認識は、その後に続く、武力行使の可能性によって高められるのである。
米国は、主として中国をにらんで、日本ともサイバー・セキュリティーに関する協力を強化したいと考えている。2015年4月にニューヨークで開かれた2プラス2ミーティングで合意された、新しい日米ガイドラインに関して、米国高官は、「宇宙とサイバーという二つの領域が、米国との協力を拡大できる領域である」と述べている 。
しかし、日本は現段階で、サイバー空間における米国との協力を強化することは難しいだろう。日本では、これまで、サイバー・オペレーションに関して、安全保障の観点で議論されてこなかった。企業の情報や個人情報をいかに守るかという、サイバー・セキュリティーだけが焦点にされていたのでは、米国や他の同盟国とのサイバー・オペレーションでの協力などおぼつかない。
日米は、2014年11月の首脳会談で、同盟深化の一環として、サイバー分野での協力強化でも合意している。しかし、その後の進展がほとんどないことについて、日本のメディアは、防衛省幹部が、「能力でも技術でも大人と子ども以上の開きがあり、具体的な協力分野が見つからない」と説明した、と報じている。
日本は、サイバー空間の利用に関して、ようやく安全保障の観点を取り入れたばかりである。これから、認識の面で他国に追いつき、実際に米国や米国の同盟国と協力を強化するためには、並々ならぬ努力を続けていかなければならない。
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