世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月23日

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 と言っても、タイは中国の属国になろうとしているのではない。世論はそれを支持しないだろう。ウイグル人の強制送還はタイでも批判され、タイ海軍の中国製潜水艦購入計画にも強い反対がある。逆に、タイ支配層の一部は米国との関係を強く支持している。今週、ある閣僚は、タイのTPP参加の意志を改めて表明した。

 要するに、米中は影響力を競っているが、まだ冷戦にはなっていない。一方の勢力圏に入れば、他方の勢力圏から追い出されるわけではない。それに、中国の影響力拡大で、米国の友情のありがたさは増すだろう、と述べています。

出 典:Economist ‘Under the umbrella’(September 19-25 , 2015)
http://www.economist.com/news/asia/21665016-unelected-dictatorship-thailands-government-finds-china-more-amenable-america-under


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 上記記事は、米国がタイのクーデターとその後の実質上の軍事政権に批判的なのに対し、中国との関係はかつてないほど良いが、タイの中国との密接な関係は今に始まったわけではないし、タイが中国の勢力圏に入りつつあるわけではない、と言っています。おそらく、その通りでしょう。

 タイは歴史的に外交のバランス感覚に長け、19世紀後半ビルマまで東進してきた大英帝国、インドシナを植民地化したフランスを相手に、領土で一定の譲歩をしながら東南アジアで唯一独立を維持しました。

 機を見るのも敏で、太平洋戦争で戦況が日本に不利になると、自由タイ運動を起こして日本に抵抗し、日本の同盟国でありながら、敗戦国扱いされませんでした。

 ベトナム戦争中は、米国に全面協力しながら、戦後はいち早く米国との軍事関係を整理しています。

 このようなタイが、中国の支配下に入ることは考えられません。経済的、軍事的に圧倒的に強い中国と、東南アジアで最も緊密と言われる関係を保ちながら、あるいは日本や米国との関係を推進し、あるいはASEAN諸国との協力を進めることによってバランスを取り、中国に飲み込まれないよう配慮して行くのでしょう。

 なお1997年のアジア危機に関する記述は正確ではありません。タイは金融危機に際し、米国から呑まされた厳しい処方箋と説教を今も恨んでいるとありますが、処方箋を与えたのはIMFで、米国は直接には何もしませんでした。当時、記者会見で、米国は何もしていないのではないかと質問された駐タイ米国大使が、米国は世界一の国内市場をタイに開放しており、また高等教育の機会を提供してタイに貢献している、と答えていましたが、これは図らずもアジア危機に対しては何もしていないことを告白したも同然でした。

 また、中国が危機に際し早々に支援を提示したと言っていますが、中国は何もしていません。全面的支援の手を差し伸べたのは日本で、日本は「困ったときの真の友人」としてタイの官民から深謝されました。

  
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