軍政を嫌う米国との関係がギクシャクする反面、タイは中国との緊密さを増しているが、その勢力圏に入ろうとしているわけではない、と9月19-25日号の英エコノミスト誌が述べています。
すなわち、プラユット政権は、新憲法草案を却下し、選挙を少なくとも2017年まで延期し、また、政権に批判的なジャーナリストを一時拘束するなど、独裁色を強めている。そのため、民政復帰を求める米国との関係は悪化し、他方、中国との関係はかつてないほど良好だ。
対等でなかったタイ—米関係
これを、アジアにおける長期の不可逆的傾向と見る向きもある。「タイは半世紀間、米国の影響下にあったが、今や中国の勢力圏に入りつつある」というのだ。
例えば、米国は軍事援助を一部減らし、合同軍事演習や公式訪問を見合わせた。また、今年、米国務省はタイを人身売買で最悪のカテゴリーに分類した。
米国とタイは昔から緊密な関係にあったが、それは対等なものではなく、タイは下に見られていると度々感じてきた。特に1997年のアジア金融危機の際に呑まされた厳しい処方箋と説教のことは今も恨みに思っている。
他方、当時早々に支援を提示してくれ、タイ内政への不介入姿勢を保つ中国には感謝の念を抱いている。加えて、中国は最大の貿易相手国であり、観光でも最大の顧客だ。中国が計画している雲南省とバンコク間の高速鉄道が出来れば、関係はさらに強化されよう。
マレー半島のクラ地峡に運河を掘る話もある。もし実現すれば、中国はマラッカ海峡に依存しなくてもすみ、非常な戦略的恩恵を受けるだろう。
タイは今や中国の支配下にあるとの認識は、7月にタイが中国から逃れて来たウイグル人の強制送還を決めた時にも言われた。
しかし、タイの中国との緊密な関係は、今に始まったわけではなく、軍事政権を批判する西側に反発したからでもない。タイは、中国がタイの共産主義勢力への支援を止めた1970年代以来、おそらく東南アジアで最も中国と緊密な関係にある。両国の間に領土問題はなく、中国系タイ人を巡る軋轢もない。中国の革命後、タイが米国の同盟国になり、両国が対立した時期はむしろ例外だった。