世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月29日

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  この論説は的を射ています。プーチンの動機が国内での自分の権力維持にあるという分析は、説得力があります。プーチンの支持率はロシアの「世論調査」では高いとされていますが、数字が操作されている疑いもあり、高い信頼度はありません。

 経済不況は国民生活に確実に痛みを与えています。クリミア併合前に「ロシアに来れば年金は4倍増」と宣伝したことの実施さえ怪しくなっています。国民の不満の高まりを感じるがゆえに、プーチンは欧米対抗、ナショナリズム、対外冒険などを、自分の政権維持のために利用しています。

 アサドはシリアで自国民をあまりに多く殺したため、はるか以前に国家統治者としての正統性を失っています。アサドは今や勝馬にはなり得ません。プーチンは、アサドと組んで得るところはあまりないこと、ロシアの数百人の海兵隊、数十機の戦闘機でシリア内戦を終わらせることなどできないことも知っているでしょう。IS空爆で米国など連合軍と同じことをすることになるでしょうが、アサド支援という米国などが受け入れない目的を持つ以上、欧米との共同戦線にはなりません。

 欧米のシリア政策がうまくいっていないことにさらなる邪魔をして存在感を示し、対外的には交渉上の梃子を、対内的には政権の正統性を高めようとしているのでしょう。しかし、結局はロシアの利益を損なうだろうとのアップルバウムの意見には賛成できます。トルコはISよりアサド排除が優先との態度を最近までとっていました。ロシアのアサド支持介入に不快感を持っているでしょう。サウジはロシアとの関係改善に動きそうな気配がありましたが、イランと同じ政策をシリアでとるロシアに反発するでしょう。イスラエルはすでに自国の戦闘機とロシアの戦闘機がシリア上空で衝突することを恐れ、それを避ける協議をロシアに申し入れています。複雑な領域に踏み込んだプーチンが、ロシアの「衰退過程」をさらに早めることになる危険は大きいように思われます。

 なお、アップルバウムはエコノミスト誌の記者を歴任し、ピューリッツァー賞も受賞した著名なジャーナリストで、東欧の専門家です。ポーランドのシコルスキー前外相の夫人で、今はアメリカ国籍からポーランド国籍になっています。そういう背景から、彼女のロシア・東欧に関する記事は、インサイダー的な洞察であると考えてよいでしょう。

  
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