町おこしの切り札
岡山県北部に位置する真庭市はスギやヒノキの森林資源が豊富にあり、総面積の8割を山林が占める。全国的には木材加工が寂れる中、幸いにも真庭市には製材・加工業者が多く残っている。このため、森林の伐採から木材製品まで、川上から川下までの木材構造物のサプライチェーンがあるため一気通貫で建材を作れる強みがある。京都府副知事の職を投げうって生まれ育った真庭市の再生をスローガンに市長に当選した太田昇氏は「真庭市の森林にある木材を使ってCLTを作ってもらえば『地産地消』にもなる。東京オリンピックの選手村の宿舎にもCLTを使ってもらいたい」と意気込む。
真庭市は木材加工に伴って発生するおが屑や木材片を活用したバイオマス発電を行っており、現在、1万キロワットの発電設備が順調に稼働している。バイオマス発電とCLT を両輪にして地域の活性化を図りたい同市は、「バイオマスツアー」にも力を入れており、「バイオマス産業杜市」として観光資源も売り出そうとしている。
ほかの県でもCLT を町おこしに活用しようとしている。高知県大豊町にある高知おおとよ製材はCLT を構造材として使った3階建ての社員寮を昨年3月に建設、CLT 建造物第1号になった。パネルを現場で組み立てる工法を採用したため、わずか2日間で組み立てが完了し、その施工スピードの速さに工事関係者が驚いた。
高知県も県内に伐採時期を迎えた豊富なスギを持っており、この資源の有効活用を推進するためにもCLTの需要が盛り上がりを期待している。このほか北海道、宮城県、新潟県、兵庫県など10の道県で普及のための協議会を設立するなど、国産材の利用拡大に結びつけようとしている。
生産能力10倍に
銘建工業の中島社長は国交省が来年春にもCLTの建築基準を決めることを見越して、本社の近くにCLT専用の新工場を建設中で、新工場の鉄骨はほぼでき上がっている。CLT の新基準が出てない段階で新工場の設備投資に踏み切るのは経営者としてリスクが大きすぎるのではないかとも思うが、CLT の将来性に賭けて決断をした。
父親が銘建工業を設立し、中島社長は3代目で63歳。地元ではNPO法人「21世紀真庭の塾」代表を務めるなど、地元経営者の「希望の星」的存在だ。業界団体である日本CLT 協会会長を務め、新工場が稼働すれば断トツの生産能力を持つことになる。
銘建工業は1923年に製材所として創業、1970年から集成材の生産を始めた。集成材製造のノウハウがあったことからCLTへの着目度が高く、2010年からCLTの製造を始めた。真庭市という森林資源が豊かな環境に加えて、中国地方を東西に結ぶ中国自動車道が開通したことで交通アクセスが大幅に改善、内陸部で製造する立地面のマイナスが解消された。現在の生産能力は年産4000立方メートルだが、来年に新工場が稼働すれば3年目以降は3万立方メートルにまで大幅に生産能力が拡大、需要があればいまの10倍に相当する4万立方メートルにまで増やす計画だ。