衰退する日本の林業の救世主として、薄く切った木材を何枚か直角に交わるように重ねたパネル状の新建材CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー、直交集成板)の実用化に期待が高まっている。林業の再生に取り組んでいる林野庁はCLTの材料として日本の森林に眠っているスギ材を活用したい考えで、国土交通省は2016年度にはCLTを使った新しい建築基準を告示して地方創生の観点から政府全体で後押しする。
コンクリートに匹敵する強度
CLTの特徴は同じ体積のコンクリートと比較して重さは約5分の1の軽さで、断熱、耐火、耐震性に優れている。現在、国交省が実験中だが、引っ張り強度はコンクリートに匹敵する強度があるといわれ、横方向からの力にも強さを発揮するため、地震の多い日本に適した建材とみられている。
CLTを使うと建築現場ですぐに組み立てられるため、コンクリートを使った工事と比べて大幅に工期を短縮することができるメリットは大きい。欧州などでは1990年代ころから普及し、5~9階建てのマンションやビルがいくつも建てられた。オーストラリアのメルボルンでは12年にCLTを使った10階建てのマンションが完成、ウィーンでは24階建ての高層ビルが計画されている。
しかし、日本ではCLT製造工場が現在でも3工場しかなく、CLTがJAS(日本農林規格)規格に決まったのも13年12月と最近のことだ。また、CLTを住宅の構造材料に使おうとすると、個別の案件ごとに国交大臣の認可が必要で、時間がかかるため、社員寮など特殊な建物から利用が始まったところだ。
国交省と林野庁はこのままではCLTは普及しないとみて、13年度から15年度にかけてJAS(日本農林規格)規格を踏まえた、構造基準や防火基準について実験を開始、この結果に基づいてCLTを使った新たな建築基準を策定する。
この基準ができれば、CLTを使った一般的な設計方法ができて、より多くの設計者が採用するようになる。同省は「現在の防火技術では4階程度のCLT建築物は建てられる。このほか鉄筋コンクリートの建物の床や壁などにも使えるようにしたい」(住宅局建築物防災対策室・木造住宅振興室)計画だ。
期待が高まる中で、長崎県佐世保市にある大型リゾート施設・ハウステンボスに7月に開業した「変なホテル」の2期工事が始まった。2階建て3棟を来年3月までに建てる予定で、部屋の床や壁にCLTが全面的に使われる。このCLTを一手に供給したのが岡山県真庭市にある集成材メーカーの銘建工業(中島浩一郎社長)で、約600立方メートル分のパネルを製造して出荷した。
原木は九州産のスギ材を使用した。このホテルの建設には鹿島、住友林業など大手ゼネコン、住宅メーカーが参加、認可に手間がかかることから敬遠していた大手ゼネコンもCLTの普及に向けて弾みになりそうだ。
地域振興に取り組んでいる日本政策投資銀行が3月にまとめた「木造建築物の新市場創出と国産材利用の推進」と題したリポートによると、CLTがすべて国内で生産され、3階までの新規建築物を木造化した場合には1兆円、さらに利用範囲が拡大すれば1.9兆円の新規需要の創出効果があると推計している。