2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年11月19日

 ただ、習の方も、経済を統括することになって、エネルギーの分散を強いられている。彼が進めている苛烈な反腐敗闘争は、処置を誤れば、標的にしたエリートたちから反撃される危険性があり、そのため、習はエネルギーの大半をこの方面に奪われている。また、党の正統性を維持するには、経済成長も持続させる必要がある。従って、習は経済からも目を離せない。

 鄧小平以後、中国は集団指導体制をとってきたが、習は困難な改革を断行するには、プーチン流の絶対的指導者が必要だと思っている。しかしこれまでのところ、彼が成功したのは、改革の実行ではなく、権力の集積だ。それに、経済が失速し、党の信頼性が崩れた時に、李は適切なスケープゴートにはならない危険性がある、と報じています。

出 典:Economist‘A very Chinese coup’(October 17-23, 2015)
http://www.economist.com/news/china/21674793-li-keqiang-weakest-chinese-prime-minister-decades-very-chinese-coup

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進む習近平への権力集中

 総書記と総理の関係は昔から微妙で、だいたい、総理が軍門に下って決着がついています。江沢民も1989年に総書記に就任したものの総理は李鵬を押し付けられ、自前の朱鎔基に変えたのは1998年のことでした。あの朱でさえ江に白旗を掲げ、泣きつきました。むしろ、胡錦濤と温家宝の関係が特殊で、総書記と総理の関係は厳しいのが普通です。

 習近平と李克強の確執は2007年にさかのぼります。胡錦濤の後継者は李と見られていたのを習が逆転したからです。2012年にそれが正式に確定し、党内世論を背景に習への権力集中が進みました。習としては李に対し圧倒的に優位にあることを見せつけたいのでしょう。

 習と李の政策の違いについては、もう少し待って判断した方がいいでしょう。李の政策は、2012年の党大会が決めた方針を踏襲していて、それは中央委員会全体会議における2013年の『改革の全面的深化に関する決定』及び2014年の『司法改革に関する決定』に反映されています。現在、この記事も指摘するように、汚職の摘発の激震が走っていて、改革に逆風が吹いています。また改革は経済成長の足を引っ張るので、進めにくい環境にあります。基本政策の変更というよりは、戦術の調整の可能性の方が大きいです。そこで習と李の差が出ている可能性はあります。

 習と李の今後の関係は、党内情勢と密接に関係するものです。習は、反腐敗で欠員となったポストを補充する人材の確保にも苦労しており、ここでも共青団人脈は役に立ちます。しかし、李が習ほど強い個性と政治力を持たないことは、はっきりとしてきました。李が生きのびるとしても政策の助言者ないし執行者としてであって、決定者ではないでしょう。そのとき李は、習にはっきりと白旗を掲げているでしょう。

  
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