WEDGE REPORT

2015年11月26日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 オズボーンの母は大学で中国語を学び、70年代に中国で暮らした経験がある。自身も20年前、バックパッカーとして独りバスを乗り継ぎ、中国を旅した。娘も学校で中国語を勉強する親子3代の親中派と報じられている。

 しかし、英紙フィナンシャル・タイムズの政治コラムニスト、ジャナン・ガネシュが記した伝記『緊縮の財務相ジョージ・オズボーン(仮訳)』を読んでも、中国への思い入れは一つも出てこない。「英国は完全に開かれた国」という強い信念の下、オズボーンは英中央銀行・イングランド銀行総裁にカナダ中銀の総裁マーク・カーニーを招聘し、シティを人民元のオフショア市場として開放した。要は、オズボーンは「小さな政府」と「開放市場」の原理主義者なのだ。

 オズボーンも中国のバブル経済が破裂するリスクは十分、承知している。しかし、英国のインフラは恐ろしく老朽化が進んでいる。ビクトリア時代のインフラが手付かずのまま残されている。原発にせよ、中国につくってもらわなければ安定した電力供給を維持できない。製造業が壊滅した英国経済を支えるのは金融セクターと不動産の上昇、外国資本、移民の労働力である。

中国の投資・契約先
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 減速したとは言え、成長余力のある中国の資本を取り込み、インフラを再整備してもらわないと英国経済は失速する懸念を払拭できない。英国は中東諸国に対しても清濁併せ呑んできた。それが、4年後に財政黒字化を目指すキャメロン政権の本音である。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加は当初、先進7カ国(G7)の間では見送ることで一致していたが、英国は今年3月、抜け駆け参加を表明、ドイツやフランス、イタリアが続いた。南シナ海やサイバー空間で中国と角突き合わせる米国は「英国は中国を甘やかし続けている」と苦虫を噛み潰した。

 欧州のシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)の上級研究員フランソワ・ゴッデメントは「英国が欧米の結束を破る形で中国の歓心を買った英国モデルが定着すると問題だ」と指摘する。地理経済学的に世界経済が分断されるのを避けるため、米国は中国との協調路線に最終的に舵を切るという絵図をオズボーンは描いている。
 

  
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◆Wedge2015年12月号より

 

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