2024年11月24日(日)

WEDGE REPORT

2015年12月7日

続発する不気味な予感

 ファルークはパキスタン人の両親のもと、米イリノイ州生まれ。2010年カリフォルニア州立大学で環境衛生の学位を取って卒業した。ハッジと呼ばれるメッカへの巡礼にも行った寡黙で敬虔なイスラム教徒として知られていた。サウジには何度かの渡航歴がある。

 一方の妻のマリクはパキスタン生まれだが、子供の頃両親とサウジアラビアのジッダに移り住んだ。ジッダからパキスタン・バンジャブ州のムルタンにある大学に入り、2012年、薬剤学の学位を取って卒業した。このムルタンは過激思想の中心地といわれる一帯だ。

 2人は出会い系サイトで知り合い、ファルークは2014年7月、ジッダに戻っていたマリクを訪ねて1週間以上、サウジに滞在。そこで結婚しマリクを連れて米国に戻った。マリクは普段、目だけを出して体をすっぽりと覆うイスラム式のニカブを着用、車も運転しなかった。

 2人はこの過程のどこで過激化していったのか。捜査当局は、ファルークが過去、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派2人と接触していたこと、マリクがISへの忠誠を誓った書き込みをしていた行動などから、夫婦が過激思想に傾倒していたと見ている。とりわけマリクはパキスタンの大学に在学していた2009年ごろ、一気に宗教的になったといわれ、ファルークがこの妻に引っ張られる形で乱射事件を起こしたのかもしれない。

 FBIはパリの同時多発テロが起きる前から米国内で少なくとも約35人以上を過激派として監視対象に置いていたが、夫婦はその対象から外れていた。つまり、このことは捜査当局に探知されていない潜在的な過激思想の持ち主は他にも多数いることを示唆している。

 一匹狼型テロは、組織型テロとは違い、電話やネットで連絡を取り合ったりせず、また謀議のために集まることもないので、事前に察知されにくい。今年1月のパリの風刺新聞社シャルリエブド襲撃と同時に起きたユダヤ系スーパーの襲撃はISの誘いに呼応した一匹狼の犯行だった。

 ISの“地元でテロを起こせ”という呼び掛けが初めて行われたのは昨年9月、米主導の有志連合がシリア空爆に踏み切った直後だ。ISの公式スポークスマンで最高意思決定機関「諮問評議会」のメンバーであるアブムハマド・アドナニによる「有志国の市民を殺せ」という呼び掛けだった。アドナニはパリの同時多発テロを企てた黒幕とされている。

 ロンドン東部の地下鉄駅でも5日、男が「シリアのためだ」と叫びながらナイフを振るい、3人が負傷した。これもISから感化された一匹狼型テロの可能性が強い。英国がシリアのIS空爆に新たに参加するなど欧米のIS攻撃が激化する中、世界各地で一匹狼型テロが続発する不気味な予感が漂い始めている。

  
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