韓国の「読み方」

2015年12月17日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 参与連帯は進歩派の団体なので、もともと朴槿恵政権には批判的だ。ただ、それを差し引いても報告書の内容には驚かされる。

 報告書によると、22件のうち刑事処分を求める告訴や告発が18件で、民事の損害賠償請求訴訟が4件だった。8月下旬の時点では、刑事18件のうち起訴されたものが7件、不起訴が5件、捜査中が6件。起訴された7件では、有罪確定が1件、1審で無罪判決が出て控訴審が行われているもの1件、1審判決がまだ出ていないものが5件だった。民事訴訟では、賠償責任が認められたものは1件もなかった。

 報告書は、「当事者の直接的な告訴がなくても、第三者による告発や捜査機関の職権で名誉毀損罪を捜査・起訴」することを朴政権の傾向として挙げている。韓国では、当事者以外でも名誉毀損の罪で告発することができる。加藤記者の事件を含む4件がこれに該当し、4件すべてが朴大統領の名誉を毀損したとして起訴されたものだった。

国民の正当な批判を萎縮させるため

 朴政権下での法的措置は、昨年4月のセウォル号沈没事故後に集中している。朴大統領が遺族や行方不明者の家族を慰労した際に「演出」があったのではないかと報道したキリスト教放送(CBS)やハンギョレ新聞を相手に、政権ナンバー2である大統領秘書室長らが損害賠償を求めて提訴。秘書室長は、法相を務めていた時の自身の疑惑に関する証言を報じた東亜日報の記者らを名誉毀損の罪で告訴してもいる。

 CBSとハンギョレを相手取った訴訟はどちらも1審で青瓦台側が敗訴して控訴、対ハンギョレ訴訟は控訴審でもハンギョレが勝訴して確定した。東亜日報記者らに対する告訴は8カ月後に取り下げている。

 参与連帯の報告書は、「政府と公職者たちから訴訟などを起こされた人々は、その過程で萎縮、発言を自粛し、心的不安(を抱き)、対人関係の断絶や財政的負担などを経験する」と指摘。最終的に有罪判決や賠償命令を勝ち取れない場合が少なくないのに法的措置に訴えることは、「国家機関や公職者に対する国民の正当な批判、監視を萎縮させるためといえる」と批判している。

著者の近著、好評発売中『韓国「反日」の真相』(文春新書)

 韓国司法は1987年の民主化まで、権力の言いなりだと批判されてきた。朴正煕政権だった1975年に8人の死刑が執行された公安事件は、2007年に再審無罪となった。この事件は今でも、民主化運動をしていた勢力から「司法による殺人」と指弾されている。

 だが、それはあくまで独裁政権や軍人出身の抑圧的政権の下で起きてきたことである。民主化から四半世紀を経て、韓国に民主主義は根付いている。一般論でいえば「報道の自由」も広範に保障されていると言えるだろう。

 それだけに、大統領という絶対的な権力者が、民主主義国であれば当然である「権力者に対する批判」を受け止めるだけの度量を持てずにいることは残念なことである。

  
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