歴史的な会談で中台首脳は長い握手を交わし関係強化を謳ったが、中台関係はこの先決して平坦ではないだろう、と11月14-20日号の英エコノミスト誌が言っています。
両立しない双方の主張
すなわち、習も馬も、今回の首脳会談の歴史的重要性を利用しようとした。が、馬が発したかったのが、総統就任以来追求してきた本土との関係改善こそが台湾の繁栄と安全を守ったというメッセージであったのに対し、習は、台湾との経済関係等の強化が将来の中台統一への道筋をつけたといいたかった。勿論、この二つは両立しない。
中国にとって台湾は違法な簒奪者であり、習がその台湾の指導者との会談に同意したのは大変な出来事だった。おそらく会談は、鄧小平による「一国二制度」の提示以来、主権に関する最大の譲歩だった。そして、習が、反対を恐れずにそうした譲歩が出来たことは、彼が鄧以来の中国の最強の指導者であることを示している。
もっとも、習も今回のことでは相当のリスクを負った。中台問題を再浮上させたために、中国の人々は中台統一を期待することになるのに、その期待は叶えられそうにないからだ。
中国側には、来年1月の台湾総統選と議会選挙に影響を及ぼす意図もあった。しかし、世論調査で優勢な民進党は、中国は一つだとする「1992年合意」を認めていない。
さらに、習も馬も中台の民族的、文化的絆を強調したが、台湾では自らを中国人ではなく、台湾人と考える人々が増えている。元々、彼らの大半は1949年以前から何代にも渡って台湾に住んでいた人々の子孫であり、中国も、1895年の日本への台湾割譲以降、内戦時を除いて、台湾を支配しているふりさえしていなかった。現在は、独立を主張すれば、武力を使うと中国が脅すので、台湾独立を言う台湾人は少ないが、統一を望む台湾人はさらに少ない。
中台首脳会談で中国が協調する「一つの中国」の原則は、事実上、これを受け入れない民進党は報復を受けるかもしれないという警告だ。民進党はこの問題をはぐらかしたいだろうが、習は受け入れさせたい。あるいは習は、統一の悲願を果たすのは自分だと思っているのかもしれない。
しかし、鄧と違い、習には今回の会談のような象徴的なもの以外に提示できる譲歩材料はない。と言って、武力による統一は考えたくない。貿易面での譲歩や観光の振興などの友好政策もさして効果はなかった。むしろ、香港と同様、本土との接触が拡大するに従い、台湾の人々は自らの独自性をより強く意識するようになるようだ。
1979年の米中国交回復の時、中国は台湾に向かって、「黄帝の子孫(中国人)の中で裏切り者になりたい者などいるだろうか」、と言ったが、裏切り者の数は年々増えるばかりだ、とエコノミスト誌は言っています。
出 典:Economist ‘The emperor’s descendants’(November 14-20, 2015)
http://www.economist.com/news/asia/21678247-smiles-and-handshakes-usher-what-will-be-rocky-period-china-taiwan-relations-emperors
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