中台首脳会談の成否問われる台湾総統選
英エコノミスト誌が中台首脳会談について、中台双方の思惑を分析しつつ、今後の中台関係はけっして平坦ではないだろうと述べています。全体としてバランスのとれた論評です。
習近平にとっても馬英九にとってもリスクを伴う決断でしたが、いずれがより多くを得、いずれがより不利になったか。たぶん、その結果は来年1月16日の台湾総統選、さらには同時期に行われる立法院選挙によって示されることになるでしょう。
馬英九の狙いが、第2次大戦後初の首脳会談を実現することにより、中国と対等である台湾を内外に示し、歴史に自らの名を残すことにあり、来る総統選挙において国民党の立場をより有利なものにすることだったとする見方は、台湾において広く受け入れられています。
首脳会談の開始当初の5分間は内外プレスに対し公開され、この場で両首脳がどのように自分たちの立場を簡潔かつ要領よくアピールするかは、最初の注目点でした。
この場で、馬が、中国側の最も重視する「一つの中国の原則」なるものに同意したとの印象を与えたことは、中国の作戦勝ちだったとの見方が台湾では強いです。
馬は、非公開の会談の後、メディアに対して、「一つの中国の原則」とは、台湾にとっては、「一中各表(一つの中国を各自が解釈する)」であり、「中華民国」を意味していることを習近平に説明した、と語っています。ただ、この馬の説明は、中国側が「一中原則」に中台が合意したとの対外説明を行った後にされたため、後手に回ったとの印象を否めません。
馬英九の側から中国の千数百基に及ぶミサイルが台湾に向けられているとして、これの撤去を要請したのに対し、習近平は、それらは台湾向けではないと一蹴し、その件につきそれ以上一切の論議が行われなかった、とも報道されています。
独立志向の民進党に集まる支持
中台首脳会談後の世論調査によると、民進党総統候補・蔡英文と国民党総統候補・朱立倫の支持率は、40%台と20%台で、蔡英文の圧倒的優勢は変わっていません。この情勢が続けば、来年1月の総統選挙において8年ぶりに民進党政権が返り咲くことになるでしょう。
総統選と同時に行われる立法委員の選挙において、民進党がどこまで票を伸ばし、現在過半数を占める国民党の議員数に肉薄するかはもう一つの注目点です。
これまで中国は、1996年、2000年、2008年の総統選挙などにおいて、硬軟両様の選挙干渉を行ってきましたが、今回も独立を志向するとみられる民進党を牽制することが首脳会談の主たる目的であったと考えられます。
今日、蔡英文は中台関係においては「独立」や「統一」ではなく、「現状維持」の政策をとることを明確にしていますが、同床異夢の内容をもつ「92年コンセンサス」については、これを受け入れないとの立場を堅持しています。蔡英文の言う「現状維持」とは、中国の統治下にない政治・経済上の実体としての台湾の存在を維持し、安定的な中台関係を持続させることです。
今回の首脳会談においても中国側は「偉大な中華民族の末裔」である台湾の人々に訴える、という手法をとりました。しかし、今日の台湾の主流は、中華ナショナリズムという血のつながりよりも、現実の自由で民主主義的制度を重視している、ということを、中国の首脳部は十分に認識できていないように思われます。
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