2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2015年12月22日

 なによりも政府軍の悪名高い“樽爆弾”などによって肉親を殺りくされている反体制派の諸組織がアサド氏の退陣が保証されていない交渉に参加するかどうかも分からない。しかもこうした和平プロセスの間、どうやって停戦を実現し、監視するのか、全く展望はない。無論、一方でISとの戦い続いたままだ。「失敗折り込みの合意」(ベイルート筋)と言うのも当然かもしれない。

最後にカギ握るイラン

 こうした難題が山積する中、ロシアは得るものを得れば、最終的にはアサド大統領を見捨てるとの見方が強い。その条件とは、第1に移行政権や新政権にロシアの影響力を行使できる親ロシアの権力が継続すること、第2にロシアの直接的な権益であるタルツースの軍事基地の存続である。ドライなプーチン大統領にとってアサド氏にこだわる理由はない。

 しかしイランにとってこうはいかない。仮にロシアがアサド大統領の退陣を認めたとしても、イランは承服しない。なぜならシーア派の盟主イランにとっては「宗派性」こそ優先されるからだ。アサド政権の基盤はシーア派の一派であるアラウイ派である。しかし、シリアは人口の約7割がスンニ派。仮にまっとうな選挙が実施されれば、多数派のスンニ派政権ができる可能性が強い。

 スンニ派政権の発足はイランにとっては容認できないものだ。イランの対外戦略の柱の1つは、イラン、イラク、シリア、レバノンというイランから地中海に至る「シーア派ベルト」を死守し、この一帯にシーア革命の思想やその影響力を拡大することにある。スンニ派政権では、この戦略が崩壊しかねない。

 イランはアサド政権支援のため、革命防衛隊をシリアの前線に投入し、多数が戦死している。シーア派政権の終焉を認めれば、何のためにイラン人の血を流したのか分からなくなる。自分たちの身を切らず、全く血も流していない米欧やサウジなどスンニ派アラブ諸国とは本気度が違うのだ。

 「シリアの和平を考える時、紛争の裏面であるスンニ派とシーア派の宗教戦争を忘れてはならない。和平を邪魔しているとの非難を避けるため、今は声高に反対はしていないが、最後にカギを握っているのはイランだ」(ベイルート筋)。アサド政権と反体制派の対話を開始させるよう丸投げされた国連幹部のため息が聞こえてきそうだ。


  
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