Q.ドイツ本国では企業のみならず、個人レベルでもインダストリー4.0への関心が高いと聞きますが、個人はインダストリー4.0のどのような点に関心を抱いているのでしょうか。
インダストリー4.0に対する理解や認識はドイツ国内でも様々ですが、昨今は労働組合でも「Arbeit 4.0(=ワーク4.0)」という取り組みが始まっています。
ここ数年職場でのデジタル化が進むなか、サラリーマンや労働者の関心を集めているのは、デジタル化によりワークライフバランスが悪化する、または最悪の場合、やがて人間の職が奪われるのではないかということです。
彼らが危惧するとおり、デジタル化で将来的に奪われる職の数と新たに生み出される職の数とを比較すると、前者の方が多いかもしれません。しかし、高齢化の進展により働ける年代も低減しているため、労働をめぐる状況が大きく変化することはないでしょう。
技術革新はどのようなものであれ、特定の職を奪うと同時に、新たな職をも生み出します。革新にいかにして対応していくかということが重要ではないでしょうか。
Q.日本でもIoT推進の動きが始まっています。ドイツのインダストリー4.0から日本への示唆のようなものはありますか。
日本は、ドイツ同様ものづくりにおいて世界の最先端を走っています。ITにおいても、ソフトウェア面では課題がありますが、ハードウェア面ではノウハウを持っています。
しかし聞くところによると、製造業の工場のような現場レベルにおいては、それぞれのメーカーが個々の標準規格を持ち、共有できるスタンダードがあるとは言い難い。IoT推進のためには、将来的に現場レベルでの共通のスタンダードを築くということが必要となってくるでしょう。
Q.日本からの企業進出を支援するロエルさんの取り組みは日独企業の交流を深め、ひいてはインダストリー4.0における協力にもつながりそうですね。現職ではどのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか。
日本企業のドイツ進出が増える中、株式会社エヌ・アール・ダブリュージャパンは1992年に設立されました。主なミッションとしては、企業や研究機関、メディア、政府関係機関や地方自治体など幅広い顧客を対象に、企業の誘致とロケーションとしてのNRW州の情報提供を行っています。しかし、税制優遇策で企業や人を呼び込むことはEU規定上制限があるため、それ以外の方法を考えなければなりません。
日本とドイツは経済的・社会的に成熟した国家です。両国ともものづくりに強みを持つ技術立国であり産業が確立しているため、世界が直面する課題に対してソリューションを生み出す力がある。互いに競争相手でありながら、顧客になるポテンシャルも大きいと言えます。
一方、日独は65歳以上の高齢者の割合が日本は26%、ドイツは21%と共に高い。このような現状を踏まえた上で企業や人へのアプローチや技術交流の促進を目指し、日本で注目されているテーマや課題に対してどう応えられるか検討することが我々のミッションです。
Q.現在注目されているテーマは何でしょうか。
我々はいつも幅広いテーマに取り組んでいますが、目下着目しているのは製造業や医療分野が今後どうなるのかということです。これは日本にとってもドイツにとっても重要なテーマです。
製造業に関する調査は4つの観点から進めました。第一には工作機械分野において、今企業が何に取り組んでいるかといったことを調べました。さらに、3Dプリンターのような何か新しく画期的な製造技術はないかということ、また人間とロボットの協働がこれからどう進むかということ、そして製造とITの融合といった観点からも調査を行ってきました。その過程でインダストリー4.0が益々注目を浴びることになったのです。