2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2016年1月1日

Q.欧州危機を経て、ドイツはEUの中でますます重要な地位を占めるようになっていますが、かつての大戦時のイメージも相まって、そのようなドイツの地位には周辺諸国からの反発の声も聞かれます。

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる:日本人への警告』エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳(文春新書)

 エマニュエル・トッド氏は著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』において、ドイツがユーロを利用して周辺の貧しい東欧諸国を自国経済に隷属させるシステムを築き上げたと痛烈な批判を行っています。

 欧州危機の最中にありながらも経済的な成功を収めていたドイツに対し、批判的な議論が生まれることは理解できます。しかしそのような解釈は誤りです。

 戦後敗戦国となったドイツは、欧州共同体の一員として欧州の政治的、文化的、経済的発展のために貢献し続け、一定の成果を上げてきました。

 EU圏内には経済発展のレベルが異なる国々が集まっており、ある国はその恩恵を受け、ある国はその負担を強いられています。現状のままでは経済的な発展にさらに開きが生じることも考えられます。歪みがさらに拡大することを防ぐためには政治や経済面での統合をより進めていく必要がありますし、ドイツを含めた各国は自国の経済や社会の構造的改革を推進する必要があります。ドイツは欧州経済を牽引するエンジンとしての責任も果たすべきです。

 その過程でドイツは自国の利益に固執せず、欧州各国の状況や課題もよく理解した上で、各国が納得できる解決策を追求していくべきです。難民などの政策的な問題においてもEU全体は協力して取り組まねばなりません。

 危機を経た欧州経済は現在回復基調にあると言えますが、その中でドイツだけが一人勝ちをすべきではないですし、欧州共同体の将来を確実なものにすることが肝腎かと思います。

Q.経済面以外で今ドイツに注目が注がれていることといえば難民問題であるかと思います。難民受け入れに積極的なドイツに対し、日本は受け入れに消極的であると批判されています。

 世界的な規模で難民問題がかつてないほど深刻になりつつある中、難民を生む国々で建設的な取り組みをすることが最も重要です。

 他方で、国際社会の重要なプレイヤーである日本も何らかの形で難民問題に協力しなければなりません。日本は島国故に難民の流入を防ぐことが可能ですが、地続きであるドイツではそうはいかず、また先の大戦の経験からして人道的にもそうすべきではありません。

 また日本は難民問題とは別に、遅かれ早かれ移民政策を真剣に考える必要があるように思います。人口が8000万人まで減ることを前提に耐えるのか、あるいは国民が成長を実感できる水準に人口を保つため、移民や難民を積極的に受け入れるのか、どのような形になるのかはまだわかりません。

 私の理解が正しいかどうか分かりませんが、“東アジアは一つの共通の文化圏である”と言われることがあります。そのような意味でも、日本にとって最も自然なのは、近隣の韓国や中国との経済的・人的な交流を、移住者を含めて考えていくことではないでしょうか。

 しかし、日本の将来にとって最も重要なのは、少子高齢化が急速に進む社会において、個人と家族が豊かに暮らせる環境を築くこと、そして地方の潜在的魅力を活かす施策を打ち出すことです。

 ドイツやNRW州で進めているインダストリー 4.0は、社会や経済を活性化するイニシアティブとして参考になることがあるかもしれません。

  
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