その答えは、「未利用エネルギーの有効活用」にある。屈足ダムの場合、川を堰き止めて取水口から発電などに必要な取水を行うとともに、ダム直下の流域などでは景観や生態系への影響にも配慮するため、常時少量の放流を行って河川の環境維持に努めている。この「維持流量」は発電には使われていなかった未利用の水資源であり、これを生かすのが狙いである。
案内に立ったJ-POWER上士幌電力所の山本守邦所長によれば、ここの維持流量は24時間を通じて放流しており、発電設備の利用率も高いという。
「少ない資源でも無駄にせず、電力の安定供給と再エネの拡大に役立てようということです」(山本所長)
J-POWERでは現在、福井県大野市の九頭竜ダムでも、遊休落差を活用する「このき谷発電所」の建設を進めている。国内では大規模な水力発電設備はほぼ開発し尽くされたといわれるなか、こうした中小水力発電所の整備にかかる期待は大きく、政府の「エネルギー基本計画」でもその活用が打ち出されている。
ジャパンオリジナルの発想で発電設備を一括リプレイス
次に森田さんが向かった先は、戦後復興期にJ-POWERが十勝川支川の音更川に建設した、「糠平ダム」と「糠平発電所」である。当時の旺盛な電力需要に応えるため、電源開発促進法に基づいて1952年に設立されたJ-POWERは、佐久間発電所(静岡県浜松市)や奥只見発電所(福島県南会津郡檜枝岐村)といった大規模水力の開発を次々に手掛けていった。ここ十勝川水系の開発は、J-POWERが初めてダム・発電所・送電線の一貫建設を果たしたプロジェクトで、糠平ダム・糠平発電所はその中心を担う存在である。
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この糠平発電所で発電に使った水を、さらに同じ十勝川の支川である茅登川に引き込んで、別の複数の発電所でも利用していると聞いて森田さんは驚いた。
「このあたりは冬には零下20度を下回るほどの極寒地として知られていますが、実は降雪量も降水量も意外と少なくて、本州の半分ほどなんですね。その資源を大事に使うための知恵なのでしょう。
それに、造られて半世紀以上も経つだけあって、ダムの風貌はさすがに年季を感じさせますけど、発電所の中は意外にも新しくて感心しました」