2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年1月18日

積極外交展開で念頭にある米国との関係性

 サウジが新国王のもと積極外交を展開しているのは、過去の外交が失敗であったとの反省に立ってであるというのは言い過ぎでしょうが、サウジをめぐる戦略環境の変化に対応するものであることは間違いありません。その変化の最も重要なものは、米国との関係でしょう。

 サウジは米国がイランとの核交渉を進めたことは、中東政策でのイラン重視を意味するものと考えました。同時に米国がシェールオイルの増産で中東、特にサウジの石油への依存度が減りました。米国にとってのサウジの戦略的重要性が減ったことは間違いありません。サウジはこれを敏感に感じ取り、米国との戦略的関係を見直さざるを得なくなったのが、サウジ外交の新動向の最も重要な要因でしょう。

 たとえ米国の利害に一致しなくても、サウジの国益から言って必要と考えれば行動するということで、イエメン内戦への介入がその例と考えられます。さらに、シーア派聖職者の処刑により断交にまで至ったイランとの対立も、論説が言うサウジ外交の新動向の文脈で理解できるでしょう。

 影響力の大きさの点で見逃せないのがIS との戦いです。サウジがIS との戦いに大きく貢献できれば、サウジの権威と地位は目に見えて向上するでしょうし、米国もサウジを見直すでしょう。

 IS との戦い、特にイラクでの戦いでカギを握っているのがスンニ派住民です。サウジはスンニ派の指導者、擁護者をもって自ら任じており、ISの支配下にあるスンニ派住民を動員し守ることができれば、IS 作戦で決定的な優位に立てるでしょうし、論説によれば、アラブ諸国のスンニ派住民はそれを期待しているといいます。

 しかし、サウジがイラクのスンニ派住民に如何に働きかけるかの具体策は見えず、実現は容易なことではありません。IS はイスラムの真の継承者であると自認して、イデオロギー的に真っ向からサウジに挑戦しており、サウジは面子にかけてIS を打倒しなければなりませんが、今のところそのための具体的戦略を欠いています。

  
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