サプライズだったマイナス金利
日本銀行は29日、マイナス金利導入を発表した。日銀による追加緩和の可能性は多くの人の頭にあったが、追加緩和の手段はETF(上場投資信託)の買い入れ枠の拡大、あっても国債の買い入れ枠拡大、くらいまでという予想が大勢で、マイナス金利の導入を予想していた人は少なかった。なぜならば、これまで明確に否定されていたからだ。
この1年間、日銀の黒田総裁は、「付利を引き下げるという議論は全くない(昨年2月)」、「(付利について)引き下げるとか撤廃するということは考えていない(昨年5月)」、「付利の引き下げや撤廃は検討していない(昨年9月)」、「(付利引き下げについて)検討もしていないし、近い将来に考えが変わる可能性もない(昨年10月)」、「(マイナス金利について)「導入すべきだとは考えていない(昨年12月)」と言った発言を繰り返し、今月18日にも参院にて「(付利引き下げについて)検討していない」と発言。21日にも参院にて「現時点でマイナス金利を具体的に考えているということはない」と発言していた。
また、白井審議委員はマイナス金利の導入について、金融機関が預金金利を引き下げることが困難な場合、金融機関の収益の低下を招いて金融仲介機能を損なうリスクがある、と指摘してきた。今回のマイナス金利の導入についても白井審議員は反対にまわり、計4人が反対、賛成5人での賛成多数となったが、日銀内でもこれだけ意見の分かれるところだったということだ。ちなみに、反対した委員は「実体経済に大きな効果をもたらすとは判断されない」「資産買い入れの限界と誤解されるおそれがあり、混乱を招く」といった見解を示した。
2500億円の利息が消える
今回導入されたマイナス金利は、金融機関が日銀の当座預金に預けたお金に対して支払う金利(付利)を変更前の0.1%からマイナス0.1%に引き下げるというもの。金融機関が日銀に預けているお金は約250兆円で、これまでの金利は0.1%だったので、年間約2500億円の利息が金融機関に支払われていたことになる。この金利がいきなりゼロやマイナスになるとこの約2500億円がいきなりゼロやマイナスになってしまうため、今回導入されたプランでは3階層方式を採用し、金融機関の規模に応じて一定額まで(既往残高分に相当)は引き続き0.1%、それより上の金額部分は0%、さらに上の金額部分に-0.1%というマイナス金利を設定する。
今回のマイナス金利導入の狙いについて黒田総裁は「短期金融市場に幅広くマイナス金利が浸透する。量の面で大規模な長期国債の買い入れを継続することと合わせ金利全般により強い下押し圧力を加えていく」と述べた。金利全体を押し下げ、銀行が預金などで集めた資金を日銀に預けるのではなく、融資をしたり、有価証券購入などの投資に向けたりし、ひいてはそれらが、個人消費や住宅購入を増やし、企業の設備投資などを増やす効果が狙いだ。
そして、これらによって2%のインフレ目標の達成を目指すことが最大の狙いだ。この点で言えば、既にマイナス金利を導入している、スイスやスウェーデン、デンマーク、ユーロ圏のうち、スウェーデンやユーロ圏のマイナス金利と同じ狙いだ(スイスとデンマークのマイナス金利は自国通貨高を防ぐことが狙い、スウェーデンとユーロ圏はデフレ払拭とインフレ目標の達成が狙い)。
後述する為替市場や株式市場への影響は、副次的なものであり、通貨安誘導や株価押し上げが狙いではない。金利を下げ、景気を刺激し、インフレ率を上げることこそが狙いである。ただ、その狙いはあくまでも狙いであり、実際にどの程度の効果があるかは不透明だ。企業の資金調達ニーズは高くない。借り手不在の中でこうした措置をとっても単に運用難の資金が溢れたり、金融機関の業績を悪化させるだけにとどまってしまう可能性もある。企業向け融資や住宅ローンの金利を下げる効果はある程度はあると思われる。一方で、法人・個人の預金金利までマイナス金利が導入されるということは、現実的には当面はないのではないかと考える。
実体的な効果は不明だが、日銀がこれまでに示してきた「年率2%のインフレ率達成のためならどんなことでもする」というスタンスを再度強烈にアピールし、そのコミットの強さを示すには大きな効果があったように思う。